第十一章 別れ

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 胸騒ぎにも似た胸の鼓動が身体に鈍く響く。顔が見たい。フェイは一体、今何を思う。アルベルトの心に再び芽生えた、この男を知りたいと言う想い。だがフェイはやはり、それを許さなかった。 「行ってこい」  そう言ってゆっくりと身体から離れて行く温もり、耳に聞こえる扉の音、一瞬触れた心、この暗闇の向こうに、その答えはあるのだろうか。  真っ暗な闇に感じる人の気配。見えない恐怖は、アルベルトの想像以上のものだった。何か手がかりをと思って伸ばした手を〝醜い人〟はゆっくりと取ってくれた。その大きな掌から伝わる優しさに、アルベルトの塞がれた瞳から涙が溢れた。 「目隠しを、取ってはくれませんか?」  小さく髪が揺れる拒絶の音が聞こえる。 「そんなにも、自分が醜いと?」  答えの代わりに、今度は強く手が握られた。一体この人に何があったのだろう。自分を卑下する事がどんなに苦しい事か、黒札に身を落としたアルベルトは知っている。その醜い姿を見てしまう事が、どれ程に傷付けてしまうかも今ならば分かる。それでも、この掌に感じる自分の思いを信じたい。 「どんなに醜くても構わない。あなたの姿が見たい────シン」  アルベルトがこの手の温もりを忘れる筈が無い。その優しさを、忘れられる筈が無い。 「アル様……!」  耳に馴染んだその声に慌てて目隠しを外すと、もう二度と会えないと思っていた男の、変わらぬ姿がそこにはあった。
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