第十一章 別れ

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 その日アルベルトの首からはフェイの手によって奴隷としての証である首輪が外された。優しく微笑んだその顔に、視界が揺れる。 「何泣いてんだよ、バカ犬」  勘違いしたまま嫌い続けなくて良かったと、アルベルトは強く感じた。その心はきっと、フェイを愛し始めていた。気付く前に旅立つ事は、運命だったのかもしれない。 「二度と、戻ってくるなよ」  そう言うフェイの瞳は少しだけ、寂しそうに揺れていた。  夕焼けの街にヒグラシの声が響き、夏が終わろうとしている頃。アルベルトにとって苦しく辛い思い出ばかりで、それでも涙が止まらないほど愛しい街に、そして愛しい人達に別れを告げた。  変わらない姿を自ら醜いと卑下したシン。想いを隠し二度と戻るなと言ったフェイ。二人の心をアルベルトは知らない。いつでも〝その時〟が来なければ気付かない、愚かで、そして知らぬ間に大切な人を傷付ける、酷い人間だ。アルベルトは何時もそう自分を戒める。ミトは何故こんな男を王と言ったのだろう。幾ら考えたとて、アルベルトにはやはり分からなかった。 第十一章・完
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