第十二章 誰が為に生きる

2/24
前へ
/356ページ
次へ
『親愛なるミトへ──元気ですか?ラブールを離れ一週間。私は今日フィリアに帰って来ました。相変わらずこの国は自然豊かな美しい国です。そういえば途中寄り道をした街で大道芸を見たよ。今度はちゃんとお金もいれました。僅か一年前の事なのにあの旅が遥か昔の様に感じています。不思議なものだね。春になったらフィリアにおいで。この国の春を君にも見せてあげたい。恋する鳥たちの歌声に、風に踊る青葉の伴奏。空を泳ぐ白雲の鮮やかさ。夜には川面で遊ぶ月光虫が寂しい夜を優しく包んでくれるんだ。君はきっと喜んでくれると思う。私も必ず会いに行くよ。それではまた。──アルベルト・フィリア』 「これでよし」  アルベルトは満足気に呟いて、今し方書き終えた手紙に再度視線を落とした。暫く筆を取っていなかったから字は歪んでしまったけれど、それもまた味があるのかもしれない。そう自分に言い聞かせ、ミトへの手紙を封に入れると、アルベルトはもう一枚便箋を取り出した。ふとフェイの最後の微笑を思い出す。     
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加