第十二章 誰が為に生きる

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 そういう事なのだろうか。だがエルバントはもう、シンと想いを通わせているのではないのか。あの日、確かにアルベルトは見たのだ。愛を囁き合う二人を、そして、長い口付けを。 「教えてくれ、エル!私は誰よりもお前の事を────」 「だったら何で戻って来た!」  そう言って、エルバントは走り去って行った。  アルベルトは叫ぶよう、胸の内で問うた。どうか誰か教えてくれ。心より愛する、わがままで、甘えん坊で、優しく素直だった弟が、どうしてこんなにも歪んでしまったのだ。どうして、あんなにも辛そうな顔をするのだ。エルバントの気持ちが分からない。歪んでしまう程に、自身は人を愛した事がないから。シンの事は確かにずっと想い続けていた。だがシンがエルバントを愛しているのなら、燻るこの想いを胸の奥に押し込める事が出来る。それ程にエルバントも大切だからである。辛くないと言えば嘘になるけれど、二人が幸せならばそれでいい。そう思えるようになったのはきっと、沢山の人に支えられたからである。そして何より、フェイに会えたからだ。あの男のお陰で少しだけ強くなれた。フェイは教えてくれるだろうか。どうしたらエルバントを救う事が出来るのか。どうしたら、あの笑顔を取り戻してくれるのか。     
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