第二章 王の姿

2/11
前へ
/356ページ
次へ
「兄様、起きて!」  耳元で騒ぐ声に重い身体を起こすと、眩いほどに輝く翡翠色の瞳が見詰めていた。 「……エル?」 「今日は畑へ行かないの?」  今は何時なのだろうと窓に目をやると、太陽はとっくに顔を出していた。  昨日は散歩の後になかなか寝付けず、結局眠りに落ちたのは夜明け前だった。お陰で久しぶりに寝坊したらしい。アルベルトはぼやけた頭を起こし、傍で身を乗り出す弟の柔らかい髪を撫でてやると、エルバントは嬉しそうに笑った。  丁度その時、自室の扉を叩く音が響き、無邪気な弟が元気良く走り出す。 「はあい!」  エルバントが扉を開けると、シンが顔をのぞかせた。ふと視線が絡んだ瞬間、胸が高鳴る。 「おはようございます。お加減は如何ですか?」  問題ない事を伝えようと口を開くも、シンに抱き付くエルバントを目の当たりにした瞬間、アルベルトは己の喉が引き絞られる思いがした。 「シン、おはよう!僕言われていた本を読んだんだよ!」 「そうですか、よく頑張りましたね」  腰を屈めたシンの頬にエルバントが優しく唇を寄せる。愛情表現の豊かな弟のよく取る行動。自身にも、同じようにする。何度も見て来た光景。それなのに、胸の奥が酷く痛んだ。素直に感情を表す弟が羨ましくて、握った手でさえ直ぐに離すシンが、髪を撫で弟を抱き上げる姿に、焦げるような痛みが断続的に続く。 「今日は一緒に遊べる?」  まるで幼い女の子のような透き通る声で甘えるエルバントに、シンは柔らかい笑顔を浮かべた。 「兄上はお忙しいんですよ。今日もお仕事が沢山────」 「気分が悪い。出ていってくれ」  シンの言葉を遮り頭から布団を乱暴に被ると、驚いたエルバントが息を飲む気配を感じた。その瞬間、なんて子供染みた真似をしたんだと、早くも後悔が押し寄せる。だが、今更引き返せる筈もなかった。
/356ページ

最初のコメントを投稿しよう!

147人が本棚に入れています
本棚に追加