第二章 王の姿

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 暫くの沈黙は周囲の空気を立ち所に奪って行く。 「エル様、先に朝食へ」  余りの驚きにかエルバントは返事もせず、だがパタパタと走る足音が遠くなって行き、シンが枕元に立つ気配を感じて、アルベルトは布団の中で硬く瞼を閉じた。 「アルベルト王」  その言葉に、シンが怒っている事はよく分かった。滅多な事がなければシンはアルベルト王などと堅苦しい呼び方はしないが、王の自覚が足りない時に態とそう呼ぶ事があるのだ。 「弟君の前で取るべき態度ではありませんよ」 「……分かっている」  そう、分かっている。だがどうしても、抑えきれなかったのだ。どうしようも無かったのだ。  たった三年先に生まれたから、アルベルトはこの国の王になった。民に認められたくて話し方も変え、父が死んだ日も、人目を憚らず泣きじゃくる弟を前に涙を流せなかった。皆と畑いじりをしたいのも我慢して、遊びたいのも我慢して、いつだって自由奔放で皆に甘える弟が羨ましくて────。自分を褒めないシンが、少しの事でもエルバントを褒めたり、優しく触れるのも耐えられない。どうして同じ血を引いているのに、こんなにも違う。 「私は……好きで王になったのではない」  ずっと胸の奥に閉じ込めていた思いが、渦巻く嫉妬に押され口をついて出て行った。  朝の爽やかな日差しの中で暫く二人の間を重い沈黙が支配していた。 「……服を着替え、庭に出なさい」  冷たい声が耳に痛いほどであった。扉が閉まる音を確認し、ゆっくり布団から這い出ると、途端にまた後悔が押し寄せた。最も言ってはいけない事を口に出してしまった。それは分かる。だがどうしたらいいのか分からないまま、アルベルトはのろのろと着替えを済まし、重い足取りで庭へ出た。青毛の馬を撫でる男の背中は、やはり重い怒りを背負って見えた。
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