第二章 王の姿

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 そのまま馬に乗せられ農道を走る。谷間に常に吹く大好きな風すらも、身体を冷やす嫌なものに思えた。シンは何処かに向かい馬を走らせている。口を閉ざした冷たい瞳に、その目的すら聞く事が許されない気がした。やがて谷間のはずれ、国境を渡る山の麓に到着するとシンはようやく馬を止めた。 「行きなさい」 「……え?」  何を言っているのか分からず見上げたアルベルトの瞳に映ったものは、今迄向けられた事のない、深い怒り。そして息をするのも忘れる程の、悲しみに満ちた瞳だった。  この国を出ろと言う事だ。自分はここまでこの男を怒らせた。一国の王として許されない事を口走ったのだ。謝った所でもう、誰一人ついて来てはくれないだろう。アルベルトもそれを理解し、深く頭を下げた。 「世話になった。弟の事、頼む」  そのまま踵を返そうとしたアルベルトの足元へ、シンは突然膝を付き、優しく両の手を取った。 「悔しいですか?」  その声にもう怒りはない。優しく包み込むような声色に、アルベルトの大きな瞳からは思わず涙が溢れた。慌てて拭おうとしても、シンはそれを許さなかった。     
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