第二章 王の姿

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 春の嵐はその後二日間、谷間の国に吹き荒れた。幸い事前準備も出来ていて、被害はそれ程に酷くはなかった。それでも家畜の柵が壊れたり、家の屋根が剥がれた者もいて、そんな時はアルベルトも一日がかりで手伝う。春に必ず嵐が通るフィリアではこれもまた伝統のようなものだ。  アルベルトは国はずれの程近くで散らばった木の柵を集めていた。周りの民と昨日の嵐の凄さを話したり、畑の心配をしたり。そんな平和な昼下がりだった。 「王様、そろそろ休憩しましょうか」  ナンシーが手に持った袋を振って、昼食を知らせてくれた。その近くにいた人々二十人ぐらいで草原に腰を下ろす。昨日までの嵐が嘘のような青空だ。嵐が運んで来た暖気のお陰で、風も随分暖かくなった。  ふとその中の一人が、なだらかな丘の向こうを指差した。 「おや、レッドさんがあんなに慌てて。ヤギに何かあったかね」  その声に視線を向けると、まるで転げるようにこちらに近付く小太りの男が目に入った。こちらの方に走り寄るその男の様相が近づくほどに明らかとなり、その顔は見た事もない程に青褪めていて、涙と汗でぐちゃぐちゃになった絶望的なその表情に、途轍もない嫌な予感が胸を締め付けた。倒れこむ男を皆が助け起こすと、震える唇がまるで悪夢の様な言葉を呟く。 「たっ、大変だ!アンナが、殺される……!」  誰しもが永遠に続くと思っていたフィリアの平穏は、春の嵐の明けた青空の下で、脆く崩れ去っていった。
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