第二章 王の姿

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 見慣れた景色が飛ぶように過ぎる。上がる息すら鬱陶しい。もっと早く走れないものか。自分の足すらも歯痒く感じる。その不吉な報せを運んで来たレッドの話では、突然現れた外の人にアンナがぶつかり、それが原因で国はずれで揉めているらしい。まさかその程度で殺されはしないと思うが、あの慌てよう。ただ事ではないとアルベルトも悟った。  漸く辿り着いた国はずれの山の麓には、大勢の人だかりが見えてきた。 「ちょっとごめん!」  人ごみを掻き分けて行くと、誰もが振り返りアルベルトの手に縋った。 「アル様!アンナが……!」 「どうか助けて下さい!」  民の顔に浮かぶ不安に、胸が酷く締め付けられる。 「大丈夫だから、シンを呼んで来てくれるか?」  一人の青年は強く頷くと走ってその場を去った。  やっとの思いで人ごみを抜けると、見た事のない服を着た男が七人。その脇で、アンナは地面に突っ伏していた。泥にまみれた顔に薄ら滲む血の色に、背筋を冷たい物が走った。こんな幼い少女に、何て事を。その怒りに、アルベルトは思わず声を荒げた。 「何をしている!」  振り向いた男達が訝しげにその姿を捉える。 「……誰だ?」 「私はアルベルト・フィリア。この国の王だ」  一瞬驚いた男達は、だが直ぐに声を上げて笑い出した。 「俺達はその山向こうの国の者だ。そこのお方は王子のディラック様。この女はな、あろう事か我が国の王子に怪我を負わせたんだ」  言われた方に視線を向けると確かに小綺麗な男が一人いた。王子と言われれば、そう見えなくもない。 「非礼は詫びる。だがここまでする必要はないだろう。今直ぐその娘を離してくれ」  アルベルトは早くアンナの無事を確認したい気持ちで焦っていた。先程からピクリとも動いてない事が気に掛かる。
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