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壊れた扉から覗く荒れ果てた部屋にゆっくりと足を踏み入れて、フェイは机の前の椅子にアルベルトを下ろした。一人窓辺に立って国を見下ろし、フェイは小さく呟く。
「これが、憎しみを生んだ国の末路だ」
その言葉を聞きながら、アルベルトは飛び出した引き出しの中にあった一枚の紙に目を通していた。
「フェイ、それでも、おまえの選んだ道は、きっと間違いではない」
アルベルトの見付けた一枚の紙は、フェイを逃がした後にロンが書いたであろう、最期の手紙だった。
『フェイ様へ────これを読んでいると言う事は、貴方は生き延びてくれたのですね。今でも自分を責めていますか?先祖の罪に身を沈めていますか?私はこの国に生まれ心より幸せを感じています。あなたの元に仕えた事を誇りに思います。これから先の人生は、どうぞ幼い日の、あの太陽のような笑顔を忘れずに生きて下さい。それが私達リーハの民の最期の願いです』
月日が流れ黄ばんだ紙には綺麗な字でそう書かれていた。死に行く時にただ大切な人の幸せを願う、その気持ちが、今のアルベルトには痛い程に分かる。フェイはその手紙を読んで、静かに涙を流した。
それから二人は国を見渡せるテラスに出て、ただただリーハの姿を見詰めた。フェイの生まれた国は沢山の悲しみを、憎しみを生んだ。それでも最期の時は、愛に溢れる、素晴らしい国だった。アルベルトは瞼を閉じて、風に揺れる草原に、嘗て栄えた国を想った────。
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