147人が本棚に入れています
本棚に追加
まだ十七歳でこの国の王となった彼を、未だに王子と呼ぶものは多い。だがアルベルトにしてみれば、それは自身の力不足でしかないのだから全く悪い気はしないし、むしろ気が引き締まる思いであった。
一年前に先代の王であった父が突然病で倒れ、そのまま息を引き取った。母は弟が生まれてすぐに流行り病によって命を落とした。長男であったから仕方がないにしても、まだ成人の儀を行なってもいない若造について来てくれる民に、アルベルトは感謝すらしていた。
額に浮いた汗を拭おうと視線を上げ、ふと農道の先に目をやると、一人の男が近付いて来るのが見えた。
「いけない、すっかり夢中になってしまったみたいだ。ナンシーさん、迎えが来てしまったよ」
同じように農道の先に目をやった女は眉間にシワを寄せてみせた。
「おやおや、怖いのが来たね。ありがとう、助かりましたよ王様。ささ、雷の落ちないうちに」
深く頭を下げた女に見送られ、アルベルトは慌てて男の元へと走り寄ったが、呆れたような瞳を細め、アルベルトが口を開くまで見下ろすばかり。
「すまない、時間を見ていなかった」
素直な謝罪の言葉を述べるも、男は小さくため息をついた。
「時間だけはお守り下さい」
「うん、これからは気を付ける」
そう言いつつ、アルベルトが朝の農作業に没頭し、約束の時間までに城に戻らない事は何も稀ではないのだけれど。
何時ものように農道の先の馬に歩き出す後姿に、アルベルト再び小走りでついて行った。
最初のコメントを投稿しよう!