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昼食を食べて語学の勉強をした後は、いよいよ実戦訓練となる。この平和な国で今まで役に立った事はないし、アルベルトは身体も大きくなく、付随して力もなく、正直に言えば苦手である。何より、実戦訓練の時のシンはいつにも増して怖いのだ。
アルベルトは何時ものように、細やかな抵抗として唇を尖らせて見せた。
「これは必要な物なのか?」
「いつどこで誰が襲って来るか分かりませんから、しっかり訓練しておかないと」
その言葉も、いまいちピンとはこない。この国では小競り合い程度の喧嘩も殆ど起きないし、勿論必要に迫られる事は今までなかった。
「不貞腐れてもダメです。さあ構えて」
しかしながらいつまでも構えないアルベルトを見兼ねて、シンは目線が合うように膝を屈めた。
「王、聞いて下さい。世界はこの国だけではない。この国の外で、世界は争いを続けております。いつ何時、どこの国が攻めて来るか分からない。それを守るものは……貴方なのですよ」
静かに、だが強く放たれた言葉に、この国以外を知っている男の見せるあまりにも悲しい表情。その時のアルベルトには当然、なぜシンがそのような顔をするのかまるで分からなかった。
シンの気迫に圧され渋々訓練を始めてはみるものの、やはり好きこそもののなんとやら。何時ものように一向に上達しないと怒られその日の訓練を終えた。苦痛の時間が終わればもう夕飯時。この城では、夕飯は皆で一緒に食べる事になっている。弟のエルバントと、大臣のマルフ、コックも女中達も。これは遙か昔より続く伝統である。異国から来たシンも初めは王族と共に食卓を囲むなどと酷く抵抗していたが、今では大分馴染んだようだ。こうして皆で食事をする事は、心を近付けるには良い事だとアルベルトも考えていた。
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