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『もしもし、壮真?』
「はい、お疲れ様です」
『何よぅ、他人行儀に。プライベートで掛けているんだからいつも通りでいいのよ』
電話は母からだった。母は仕入れ担当責任者として海外を飛び回っていた。いわゆるバイヤーだ。
且つて身を置いていた芸能界という華やかな場所で培ったスキルを活かし経験と実績を着実に重ねて今ではヤリ手のバイヤーとしても名を馳せていた。
「何か用?今はフランスにいるんだっけ」
『そうなの。しばらくは滞在する予定。でね、用っていうのは綾ちゃんのことなんだけど』
「何」
『ねぇ、綾ちゃん、本当に結婚式挙げなくていいって言ってるの?あんたが変な遠慮させているんじゃないでしょうね』
「──あぁ、そのこと」
俺と綾は結婚式を挙げていなかった。ふたりだけでウェディングフォトというのを撮って両家にはそれを渡していた。
『わたしの経歴を気にして式を挙げないって綾ちゃんにいったんじゃないの?』
「別に母さんのことで挙げないわけじゃないよ。ふたりで話して式には拘らないってことで意見が一致したんだから」
母は結婚相手として綾を紹介した時、小さい時に俺の友だちとして何度か会ったことのある女の子ということですんなりと結婚を認めてくれた。
それに小柄で可愛らしい綾に『可愛い服を着せられる娘が出来た!』と大層喜びあっという間に綾を気に入った。
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