『春ノ国』。

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王に即位したての頃の朱雪(しゅせつ)はまるで捨てられ拾われたばかりの子猫のような姿をしていた。 それこそ、朱桜(しゅおう)が王宮に連れ帰ったばかりの朱雪(しゅせつ)は捨てられた子猫そのもののようだった。 ボサボサに伸びた髪にはヘドロが付き、身に付けている衣服は服とは言い難い襤褸の切れ屑でその襤褸の切れ屑から覗いた手足はゴボウのように細く、髪と同様にヘドロにまみれていた。 だが、その端正な顔立ちの上に光り輝く、その瞳はそのみすぼらしい姿を忘れさせてしまうほどの力を有していた。 朱雪(しゅせつ)のその金色の瞳は声なく『私が『(しゅん)ノ国』の王だ』と告げていた。 だからこそ、王宮に仕える者たちは皆、一目でその汚ならしい子供に・・・朱雪(しゅせつ)に平伏した。 そんな朱雪(しゅせつ)の体の時は20歳で止まっている。 そう。時が止まっている・・・。 それはつまり、老いないと言うことだ。 王も王に仕える(しるべ)にも老いはない。 王は現れた(しるべ)と血の契約を交わす。 そうすることで一国の王としての正統な権利を得て、体の時が止まる。 朱雪(しゅせつ)朱桜(しゅおう)と血の契約をするまでに時間を掛けた。 いや、朱雪(しゅせつ)が時間を掛けたのではない。 朱桜(しゅおう)が時間を掛けたのだ。 王宮に仕える上層の官僚たちは朱桜(しゅおう)に早く血の契約を交わすようにと迫ったが朱桜(しゅおう)は毅然とした態度で『それはならない』と告げた。 もちろん、それに上層の官僚たちは『なぜか』と迫ったが朱桜(しゅおう)はそれに応えることなく薄く笑んでいた。 それはまるで上層の官僚たちを嘲笑うかのように・・・。
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