『夏ノ国』。

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『夏ノ国』。

()ノ国』は鳥たち囀ずる鳥の国。 その『()ノ国』を治めし王・夏主(かしゅ)の名はシバ。 シバを王に選びし(しるべ)主鳥(しゅちょう)の名はモア。 『()ノ国』はシバが治めるまで『死ノ国』と呼ばれていた。 【『()ノ国』は潰えた。甦ることなどもう二度とないだろう・・・】 そんな言葉が他国で囁かれるほど『()ノ国』はひどく潰えていた。 前王が倒れてからと言うもの『()ノ国』には灼熱の日差しが昼夜を問わず降り注ぎ、人を焼き、獣を焼き、鳥を焼き、虫を焼き、植物を焼いていた。 水は干上がり、水の干上がった川には何の血ともわからぬ血が流れ、本来ならば極楽鳥花(ごくらくちょうか)の咲き浮かぶ彩海(さいかい)には多くの生きていたモノたちの残骸が虚しく浮いていた。 『()ノ国』の民が皆、絶望の言葉を口にし、死を望んでいく中、一人の若者だけが希望を胸に『()ノ国』の行く末を案じていた。 その若者の絶望に屈しない心は気高く、強かったが骨と皮だけになったその体は例えようがないほどにみすぼらしかった。 しかし、その若者こそが現在の『()ノ国』の王・夏主(かしゅ)であるシバだった。 シバは今にも息絶えそうなその絶望的な状況にも関わらず血色の空を見上げ、笑んでいた。 その血色の空を見上げ続けて一体、どれ程の歳月が過ぎ去ったのかはもうシバにはわからなかった。 もう駄目かとシバがそう思った時だった。 東の空に瑠璃緑(るりりょく)の美しい光輝く大きな影が現れたのだ。 その瑠璃緑(るりりょく)の美しい光輝く大きな影こそ、シバの(しるべ)である主鳥(しゅちょう)のモアだった。
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