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第57話/ 見知らぬ悪魔より馴染みの悪魔
「フレム、無事なんか?」
そう言って最初に顔を見せてくれたのは、シャッターが上がり切る前に、腰を屈めて顔を覗かせたストームだった。
実はあの後、氷漬けと化したアスタルトを含め、隙間を塞いだ氷結効果は3日ぐらいだと鳳炎から説明を受け。それならばと、中央ドームからの脱出を考えたのだが……。
男になったのに腕力が足りないのか、自力で持ち上げれないシャッター。随分厚みのある鉄板状のものだし、鳳炎が力任せに開けようとしたところを却下。修繕が必要となり、かえって面倒なことになるのでは? と考えた末、鳳炎に頼んでウォーム宛にテレパシーで救助要請をしてもらい。ちょっと隙間を埋めた氷から冷気を感じるけど、見張りを兼ねて中央ドームの出入口付近で待機する事にしたのだ。
因みに召喚した龍碑と竜祈は、申し訳ないけど元の世界に帰ってもらった。きゅんきゅんと甘えた声で嫌がってたけど、食料の確保が難しいことから「元の世界に戻って、俺達の安否を伝えて欲しい」と仕事を与えることで納得してもらい。中央ドームの出入口で、俺は小型ドラゴンの鳳炎を肌寒さから守る形で助けを待っていたのである。
「怪我してないよね?」
「してないよ。それより、カインドは?」
拐った目的が施設にあるのなら、取引の連絡ぐらい入ると思って尋ねてみたけど……。二人は、申し訳なさそうに首を横に振った。
「フレム、その話は場所を変えて話そうや」
「そうだね」
「サンダーなら施設の指揮官を務めてるよ」
ストームの意見に同意した後、この施設を管理・運営しているカインドの兄。サンダーの姿を目で探していると、俺から質問する前に察してくれたウォームが教えてくれた。
「死者はおらへんようだけど、意識が飛んどる奴が仰山いるんだわ」
「ぴょん吉君の話によると、呪詛のようなものが施設全体を覆ってたみたいだけどね」
「ちょっと待って。ぴょん吉がいるの?」
いつもカインドと行動を共にしていると思ってただけに、解かれた呪詛よりカインドの側にいるはずのぴょん吉が施設に居る事に驚いた。
(偶然部屋に置いて行かれたのでしょうか?)
「どうやろな。ぴょん吉は焦っとるようやったけど、サンダーはテレパシーで何か言われたんか。渋い顔しとったわ」
「今頃スフォームに連絡してるはずだよ」
ーーマジか。
テレパシーで尋ねた鳳炎の質問に答えたストームの話を聞いて、考え過ぎであってほしいけど……。今回の誘拐事件は、突発的に起きた出来事にしては計画性を感じる。
カインドが相手に気付いて、咄嗟にぴょん吉を置いていったのならいいけど……。
(御主人、此処で考えててもキリがないと思いますよ)
「ホンマやで」
「僕らも聞きたい事が山程あるから、ここはサンダーのところにお邪魔してみようか」
「いいの?」
指揮官務めてるなら、事が落ち着くまで待つべきだと思うんだけど……。確認のため俺が尋ねてみると、揃って親指を立てられた。
ーー本当かなぁ?
ウォーターの事があったので、余り信じられなかったりするんだけど……。
今の俺にとって二人は職場の上司だ。
立場上世話になってることもあって、それならばと付いて行ったものの。案の定、通信室にいたサンダーに酷く睨まれてしまった。
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