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「エ、エレクさん?」
「おっ。どうした? 怪我でもしたか?」
ーーと、此処でエレク。
よぉやく声を掛けた俺とは別に、殺気立つウォームの存在に気が付いてくれたようだ。
それも穏やかな笑みを溢して、目が合ったエレクに「殴っていいか?」と、炎を宿した拳を構えて尋ねているところが怖い。
「魔法付きは勘弁してくれ」
「エレクさん、何してたんですか?」
「不在になるタイミングが悪い。非常口を閉めてくれないか?」
握った拳を自身の手の平に納めたウォームは、ひとまず安全のために非常口のドアを閉めさせると、エレクが手にしていた双眼鏡に不快感を示す。
「双眼鏡は?」
「外に出てアスタルトを観察するためだが」
けれどウォームは、その話を鵜呑みにしたくないとばかりに目を細めた。
「何か、あったのか?」
「カインドが拐われたんだよ」
ウォームが答えないつもりだろうと思った俺は、事情が分からず狼狽えるエレクに言った。本当に最悪なタイミングである。
それは、さすがに変わっていると定評のエレクも思ったようで。感情のまま弁明しようとする気持ちを抑え込むように生唾を飲み込んでから、やたら疑いの目を向けるウォームに謝罪する。
「悪かった。急にアスタルトがざわついて、寝室の窓からでは確認出来そうもないから。つい非常口から外に出て観察してたんだ」
「証人は?」
「さすがにいないだろう。気付いたのは夜中の2時前だ。お前らは何の用で俺を探してた? 怪我じゃないんだな?」
「あぁ。フレムがアスタルトのことで、エレクに調べてほしいことがあるそうだ」
「アスタルトのことで?」
ウォームに行動を疑われてることから、カインドの事だと思ってたようだが……。
俺の顔を見て、確信したようにエレクが真剣な表情で尋ねてくる。
「何か見たんだな?」
「うん。実は俺の命を狙った奴が、そのアスタルトを使役してたんだ。それも一匹や二匹じゃなくて……。とりあえず氷付けに成功したから、一度エレクさんに調べてもらった方がいいんじゃないかと思って。ウォームと一緒に探してたんだよ」
「そうか」
けれど両手を挙げて喜べないとばかりに、俺の話を聞いて返答した彼は、鋭い眼差しを向けてくるウォームを一瞥。本当に運が悪いとしか言いようがない状況だが、付き合いの長さから肩の力を抜いたウォームは、顔色を伺ってくるエレクに現状を伝える。
「魔法効果はもって3日程だ。やるならLiderの協力を求めてからにするよう、サンダーからお達しが出てる。と言うのも、今のところ原型を止めてるようだが、いつ死石になるか分からない以上。疑われるような行為は避けてもらいたいからね」
「……肝に命じます……」
「ところでエレクさん。アスタルトって、そもそも生物なんですか?」
図鑑を出した張本人だし、それぐらい簡単に答えてくれるんじゃないかと思った俺は、重い空気をぶったぎる勢いで素朴な疑問をエレクにぶつけた。
死ねば白の死石へと変貌するアスタルトが、虫や動物のような生命体とは思えない。
けれど使役が出来るのなら、生物に近い本能はあるんじゃないかと思ったのである。
けど少し考えた素振りを見せたエレクは、あっさりとした口調で「分からん」と、軽く俺をずっこかせたところで。隠す必要がないのか、立ち話の状態で理由を教えてくれる。
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