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ーー相変わらず中途半端な実力だな。
思い返せば、いつも助けがくるまで時間を稼いでばかりのような気がする。
まぁ記憶が戻って魔法が使えるようになったからと言って、そう簡単に恐怖を律する精神が手に入るとは思ってないけど……。
通過したドアを閉めて、自室と言われた寝室へ閉じ籠る前に、カインドとお茶会をしたホールに足を運んで肩を落とす。
ーー何も出来なかった。
自分の身を守ってもらうだけ守ってもらっておきながら、他人の事を助ける余裕がなかった自分の精神状態に罪悪感を覚える。
けれど突然背後から「フレムさん!」と呼ばれ、振り返った次の瞬間。メリアさんに抱き締められたと同時に、彼女の肩に乗っていたぴょん吉に視界と口が塞がれた俺は、落ち込む間も無く生き地獄を見る羽目となる。
「無事だったんですね!」
「心配してたんよ!」
しかし、ぴょん吉に口と鼻を覆われてしまった俺は、二人と喜びを分かち合う余裕なんて微塵もないって言うか。
(鳳炎、助けてっ!)
メリアさんにがっちり両腕をホールドされてしまったがために、自分でどうすることも出来なかったので、半ば本気で助太刀を求めた。
「お、お二人共! 我が主を窒息死させるおつもりですか?!」
「へ? あっ、ごめんなさいっ!」
慌てて俺の顔からぴょん吉をひっぺりがした人型の鳳炎は、興奮冷めやらぬ二人に突っ込みを入れ。間一髪のところで酸素を手に入れた俺は、咳き込みながら上がった心拍数を深呼吸で鎮めた。
「……こ、殺されるのかと思った……」
「ご、ごめんなさい! ごめんなさい!!」
「そんなつもりじゃなかったんよ。引き止めようにも部屋に閉じ込められとったけん」
「と、閉じ込められてた?」
謝罪するメリアさんの後に発言したぴょん吉の言葉に耳を疑った俺は、咳き込みながらも問い返した。すると鳳炎からぴょん吉を引き取ったメリアが、困惑の色を浮かべてながらも「はい」と肯定して俺の質問に答える。
「どうもカインド様は、薄々自分が狙われていることに気付いてたそうで。わざと捕まりにいったんじゃないか、って。ぴょん吉さんが言うんです」
「わざと?」
「そうなんよ! 前から誰かに見られてるような気がするとか言うとって……。死ぬことはないだろうから、わざと捕まってみようなんて言うとったから」
ーーあ~……。
カードに封じられし者だからか。
記憶に間違いがなければ、死ぬとカードになる事からその名で呼ばれ。新たな主を得ると、再びカードから人の姿になるんだとか。
記憶という情報で知っていることなので、真実味がないんだけど……。本当なら、カインドが己の命を軽視しても不思議ではない。
「サンダー様も、どうやら思い当たる節があるみたいで……。逆に巻き込んで申し訳ないと謝られました」
「そう、なんだ」
だからサンダーは、俺と顔を会わせても問い詰めることはしなかったんだろう。
望んで捕まった者を俺が命をかけて助ける義理なんて無いし、どうしてやるのがベストなのか。兄であるサンダーも悩んでいるのかもしれない。
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