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「通りで御主人と価値観が噛み合ってないと思いました。ではメリアさんの世界基準だと、私の御主人は実戦並ということですね」
「はい! 凄腕召喚術士と呼ばれても可笑しくないぐらいですよ。私自身、鳳炎さん程の実力者を従える事は出来ませんから!」
ふんすと若干興奮ぎみに力説してくれるメリアさんの様子からして、やはり鳳炎の実力は並大抵のもんじゃないらしい。
思えば彼は、今回の敵に対して小型ドラゴンのまま対応していた。案外実力の半分も出していなかったかもしれないと思ったが、親玉が分からない以上無理は禁物だ。何かあっても責任がとれる自信無いし……。
大体召喚ではなく迎えに来てもらった身なので、ベタ褒めしてくれるメリアさんに申し訳ないけど……。個人的は、従えてる自覚は無かったりする。
「因みに殺されたメリアさんのパートナーは、鳳炎より実力はなくても、戦闘能力や守備力があるようなタイプだったんですか?」
「ううん。だから進んで前に出るような子じゃなかったし、突然相手に向かって警戒音を出すような子じゃなかったのに……。どうしてたかな? フレムさんに聞いても仕方のないことだけど、気になって……」
ーー相手に向かって?
メリアさんが出来事を振り返って、涙ぐんでいるところ申し訳ないけど……。
相手がもし本物の悪魔だとしたら?
鳳炎は、悪魔を余り知らないようだから反応がなかったけど……。メリアさんのパートナーはどうなんだろうか? そもそも鳳炎が知る世界とは、全く違う世界から来ているようだし……。知ってても不思議ではない。
俺は、彼女が落ち着いたところを見計らって尋ねてみることにした。
「あの……。もしかしてメリアさんの世界には、悪魔が存在してたりしますか?」
鳳炎やエレク氏に尋ねた時より緊張して、胸騒ぎから嫌な予感がするのは何故だろう?
問われたメリアさん自身もなのか、耳を疑うような眼差しを俺に向け。少し間を置いてから、険しい表情を浮かべて答える。
「はい。地上には、レッサーデーモンと呼ばれる下級悪魔しか姿を見せませんけど……」
「じゃあ連れてたパートナーは、魔属性や闇属性を嫌うタイプだったりしませんか?」
「そう、ですけど……。まさかっ!」
俺が何を言いたいのか理解したんだろう。
震え出した手をギュッと押さえ込んだメリアさんが、熱い視線で俺に確かな答えを求めてくるけど……。安易な発言は、己の首を絞めるだけなので。ここまで尋ねとおいて、申し訳ないと思いながらも俯き様に謝罪する。
「すみません。まだ自称か、本物か分からないんです。名乗るだけなら自由だと思いますし、俺はメリアさんのパートナーの事を何も知りませんけど……。もし俺の推測が正しければ、メリアさんのパートナーは優秀です。そこは断言しますよ!」
すると目頭に涙を浮かべたメリアさんは、俺に精一杯の微笑みを浮かべて「ありがとう」と礼を告げた後、溢れ出す気持ちを押さえられず泣き崩れた。……無理もない。
彼女のパートナーは、目の前の相手が悪魔だと即座に気付いて警告したのだ。
ーー大切な主を悪魔に奪われないようにーー
(御主人。貴方の推測は、もう確定の領域に達しているのではありませんか?)
ーー鋭いな。
メリアさんとは話しが通じたので、レッサーデーモンが何なのか説明を省いたというのに、テレパシーで核心を突いてくる鳳炎。
まぁプレイするゲームによって容姿が変わるため、説明を求められても下位悪魔を総称してレッサーデーモンと呼ばれることしか、俺も知らなかったりするんだけど……。
自分自身余り信じたくない話題でもあったので、俺は苦笑いを溢して、その場を誤魔化すしかなかった。
【完/見知らぬ悪魔よりも馴染みの悪魔】
※タイトル補足/英語のことわざ※
Better the devil you know than the one (devil) you don't know.
「2つの選択肢のうちどちらにするか迷ったときは、好ましくなくてもよく知っているほうを選んだほうが良いという意味」
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