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「そもそもフレムが言う、バールってなんなんや? 悪魔の親玉みたいなもんをイメージすればえぇんか?」
「うん、まぁなんて説明すればいいのかな。悪魔のボスは他にもいるんだけど、<地獄の王>と呼ばれる有名な悪魔で。胴体が蜘蛛でありながら猫と人間とアマガエルの3つの顔を持った、六十六もの軍団を率いる実力者なんだよ。人前では立派な紳士の姿になるみたいだから、容姿に関しては一概に言えないんだけど……。だから深追いしなかったんだ」
まぁそれが正しい判断だったのか、今だ悩みの種だったりするんだけど……。俺が苦悩の表情を浮かべると、ウォームとストームがお互いアイコンタクトを交わして発言する。
「ワイは正しい判断やったと思うで。相手が分からへんのに深追いなんて、自殺行為や」
「僕もそう思うよ。とりあえずカインドの事は、追々救出作戦を計画するとして。この世界にバールが本当にいるのか、調べてみる必要がありそうだね」
「せやけど六十六もの軍団かかえとったら、さすがに噂になっとるんとちゃうか?」
「それが<アッピンの赤い本>が実在すると、魔力の無い人間でもバール同等の力を得られると言われているんだ」
「なんやて?」
こっから先の話は、ファンタジー好きでもマニアックな部類の知識になってくるため、知る人ぞ知る領域の話だ。
ストームが分かりやすい反応を示したので、俺は知ってる限りことを話してみる。
「俺が英里として生活していた世界の話によると、バールはある日。生贄にうってつけの少年を見つけて、立派な紳士に変身して近付き。身の上を聞き出した後、赤表紙の本を取り出して署名を求めた。この本に名前を記したら最後、少年の魂はバールのものになるんだけど……。少年は、バールが思ってたよりずっと賢明で。うっかり少年に騙されたバールは本を渡し、一命をとりとめた少年はその本を持ち帰った。それが魔道書<アッピンの赤い本>と言われているんだ」
「……意外とおまぬけさんなんだね」
「うん」
ゲームでめちゃくちゃ強い設定をされがちな悪魔だったりするのだが、聖なる円の内側に立つことで我が身を守った少年は、悪魔より口が達者だったのか。はたまた悪魔以上の悪知恵の持ち主だったのか。まんまと悪魔の所有物を取り上げて、一命をとりとめてしまうのだから恐れ入る。
「だけどその書物には、バールに忠誠を誓った悪魔達の名が記されていて。記された名前を正しく発音すると、その名の悪魔が出現し、いかなる命令も従うと言われてるんだ」
「せやから、魔力の無い人間でもバール同等の力を得られると言われとんのやな」
「うん。しかも、この<アッピンの赤い本>は現在行方不明で。異世界に似たようなものがあっても、不思議じゃないと思うんだ。現に伝承はなくても、月や曜日に天使や悪魔、神々の名前を愛用されてるみたいだからさ」
「ホンマかいな?!」
ストームの確認会話に肯定した後、何故そんな突拍子もない発想をするようになったのか。些細な切っ掛けを伝えると、鳳炎がこの場にいない功労者の名を上げる。
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