第58話/見えない敵の存在

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「グレイさんにお伺いしたんですか?」 「うん。表の世界に行くためには、曜日で決まった運用があるだって。たまたま教えてくれた時に聞いてみたんだよ。ただ悪魔に個人名があるとは知らなかったから、多分グレイと同じ世代に尋ねても悪魔(バール)のことは分からないと思うよ」  するとストームが、わざわざ口に運ぼうとしたおかずを止めて質問する。 「なんでそうなるんや?」 「じゃあ逆に聞くんですけど……。誰から月の別名を教えてもらったのか、今でも覚えてたりするの?」  恐らく此の世界に来て、間もない記憶なんだろうけど……。俺の質問に対し、「モートの、あれか」と再確認したストームは、相槌を打った俺から天井へと視線を変えて、思い出した事を簡単に答えてくれる。 「確か、昔世話になった此の世界の婆さまやと思うで。あの世代は、もうおらんへんかもしれんけどな」 「でも、あの子なら知ってるんじゃない?」  ーーと、これはウォーム。  どうやらストームの言う婆さまを知ってるようで、更にその知り合いを指すように言葉を続ける。 「ほら、保護と言う名目で預かってるというか。軟禁してるというか」   「ウォーム、それやとワイが犯罪者みたいやないかい!」  一瞬ストームの行いに疑惑を抱いたけど、どうやら訳ありのようだ。  注意を受けたウォームは、「ごめん、ごめん」と軽く謝って、事情が分からない俺と鳳炎のことを考えて言い直す。 「でも龍脈の事とか僕らより詳しそうだったし、フレムはバルトトスを倒した後、救急搬送されたから知らないだろうけど。ストームの施設に不法侵入してきた過激派の中に、そのお婆様と生活していた異世界の子がいるんだよ。尤も今は、訳あってストームの施設で世話してる状態だけどね」 「つまり、知り合いってこと?」 「短い間やったけどな」 「会うだけ会ってみるかい? どのみちストームの施設に立ち寄る予定だし、バールの素性が分かるかもしれないよ」 「だけど、いいの? 会いに行って……」  過激派と一緒に施設を襲ったのなら犯罪者扱いだろうし、危ないから軟禁しているんだと思うけど……。ストームは「別に気にすることないで」と言って、残りのおかずに手を付け始めた。 「それと、出発する前にレディウスさんに会いにいかないとね。約束してるんでしょ?」 「うん。この施設に来てるの?」 「来てるよ」 「せやけど、フレムは見習いなんや。ウォームと一緒に行くんやで」 「分かってるよ」  ーー要は監視が必要だなんだろう。  不機嫌になって口の悪さが際立(きわだ)つけど、行く先々で問題起こしてる状態だから仕方がない。喧嘩になっても面倒臭いだけだし、ちょいとイラついた気持ちを押さえ込んで確認する。 「出発時間は12時のままだよね?」 「せやけど三十分前集合やで」 「10時になったら動こうか」  ストームの忠告の後、ウォームの指示から壁かけ時計を見上げた俺は、随分遅い朝食を食べているのだと気付いた。救出されるまでの待ち時間とは別に、エレク捜索に時間がかかったからだろう。  俺は相槌を打って了承すると、盛られた朝食を綺麗に平らげ。少し休憩を挟んでからレディウスがいるであろう、Lider専用の通信室へと向かった。
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