第59話/伝説に生かされる者

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「因みに此の世界って、ワープと言うか。狙って別の世界に行く技術はないの?」 「あったらワイ等が此処にいる理由なんて、無くなると思うで」  --ですよね!  でなきゃWPに助けを求める理由なんてないし、この世界に居座り続ける選択をする理由を疑うべきだろう。  俺の疑問に突っ込みを入れたストームの横から、ウォームもその可能性否定してくる。 「WPがこの世界に辿り着いたのも、僕らが救難信号を送ってたからなんだよ」 「え、そう言うアイテムがあるの?」 「いや、そう言う教育を受けとるんや」  記憶が戻れば常識なのかもしれないけど、ストームの答えに俺は首を傾げた。  英里だった世界では、火を起こして煙で居場所を伝える原始的な手段はあるけど……。 (御主人、要は魔術ですよ。魔法は神の干渉が可能な世界にしか通用しませんが、産まれもった魔力が使用出来ない世界に飛ばされない限り。魔法陣を活用する事ができます) (なるほど)  つまり救難信号の役割を果たす魔法陣を義務教育として受けているのだろう。  遭難規模が異世界の時点で、異常のような気もするけど……。そこは、さすが魔法が実在する世界(ファンタジー)ということにしておく。 「今も帰る意志はあるから、引き続き救難信号を送り続けてもらっているけどね」 「もらっている?」 (それはラーリングさんの住まいに上がれなかった理由と、何か関係がございますか?) 「どうやろな」  ウォームの返答にオウム返しで俺が尋ねると、続けて鳳炎が思い当たる節をテレパシーで質問。すると、その場にいなかったストームが明確に答えられないことからウォームに視線を送り。顎に手を添えて考えをまとめたウォームが、知ってる限りのことを教えてくれる。 「魔除けを兼ねて、光の魔石を使ってはいるけど……。今となっては、僕らが相手でも中には入れてくれないからね」 「そうなんだ」 (家の持ち主は、今もラーリングさんで間違いないのですか?) 「そうや。せやから、ラーリングがワイ等を敵視するようになってから入れんようになったんやと思ってたんやけどな」  しかし、俺とラーリングの関係はそう悪くないはずだ。鳳炎の問いに答えたストームが首をひねると、ふとした瞬間に気付いた俺が、この場にいる人達の共通点を挙げる。 「ねぇ、今更なんだけど……。俺達の仕事上の上司って、スフォームなんだよね?」 「そうだね」  何気無い確認会話の後に、ウォームが肯定して数秒。まさか、という空気へと早変わりしたところでストームが頭を抱えた。   「それでやな」  どんなにラーリングと仲が良くても、魔族であるスフォームとの繋がりを疑われる要素としては十分である。 「相手は精霊や。目に見える情報や人伝(ひとづて)から得られる情報だけやのうて、自然に宿る情報からワイ等の目には見えへん情報まで得られるんやけぇ。そらぁ疑いもするわな」 「いつも当たり前のように世話になってから盲点だったよ」  恐らく当時は、ラーリングが主体で活動していたこともあって。スフォームの魔力で具現化してても、味方として認識されていたんだろう。  彼女の言葉を思い返すと、脳裏にひっかかる言い回しをされたような気がする。      *  *  * 『ごめんなさい……。お通しすることは出来そうにありません』      *  *  *  記憶がなかったからなのか。それともラーリングの味方だと、断言出来る要素が少なすぎたからなのか。俺を追い返す彼女の涙が、懺悔(ざんげ)にも思えるのだ。 「どのみち今のままやと、中には入れてくれへんやろな。今回の件、何とかラーリングに話したようやけど。案の定、反応は最悪やったらしいで」  __だろうね。  キアに続けてカインドまで何かあったとなれば、マイナス思考が加速しても不思議じゃない。むしろそれが普通の反応だろう。  せめて顔を合わした時、これからどうしたいのか。俺から尋ねても、何とか答えられる精神状態だと良いんだけど……。  俺は溜め息を吐いた後、ひとまず頭を休めたいからと昼寝宣言をした。
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