第60話/渦巻く陰謀論

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「出てって! 裏切者っ!!」  投げ付けられた枕を顔面キャッチしたストームは、何も言い返さなかった。  柔らかい素材のお陰で、ダメージはないようだけど……。  ーー裏切り者というのは?  意味深な発言に入室のタイミングを(のが)していると、床に落ちた枕を拾いあげたストームが部屋の中にいる相手に話しかける。 「元気そうで何よりやわ。ワイは席を外すけぇ、フレムの話し相手になってくれへんか?」  しかし、相手からの返答は無く。  機嫌を悪くしているのではとビクビクしていると、拾った枕を俺に託したストームが「後は頼むわ」と言って前方を譲り、部屋を出て直ぐの壁に背中を預けて腕を組んだ。 「僕も後ろ手に控えておくね」  ストームが前を譲ったことで、室内にいた女性の姿を確認する事が出来たけど……。  距離を置いて立つ青いおかっぱヘアの彼女は、ウォームの姿が見えなくなるまで鋭い眼差しを向けた後、少し肩を撫で下ろしてから俺に視線を向けて問う。 「どうして、あんな人達と行動を共にしてるんですか?」  ちょっと強めの口調からして、ウォームやストームと一緒にいる事を余り良くないと思っているようだ。俺は怒られた心境に陥って、弱気な口調で返答する。 「助けてもらった成り行きで……」  言い方は悪いけど嘘ではない。  それでも癪に触ったようで、歩み寄って腕を組んだ彼女は、機嫌悪そうに自己紹介ついでとばかりに俺を叱る。 「あしは、セレナ=ロイヤル。そこの貴方! ドラゴンに選ばれた身として恥ずかしくないのですか?!」  ーーはて?  それは鳳炎の事を言っているんだろうか?  いつも無条件で助けてしてくれる事から、遣えてる気なんてなかったけども……。  返答に困っていると、鳳炎が相手にテレパシーを送って対処してくれる。 (セレナさん。さすがにそのお言葉は、聞き捨てなりませんね。その価値観は、セレナさんの生まれ故郷だったらのお話しではないのですか?)  すると俺には強気だった彼女は、鳳炎の発言にびくつきながらも言い返す。 「ですが無垢を失われし人間が、貴方の前に立つのは可笑いと思います」 (ーー何のお話しですか?)  話が通じない相手程、難儀なものは無い。  だけど俺は、彼女の価値観が何となく分かってしまった。旧約聖書に登場するアダムとイブの物語の中でも、ちょっと調べれば分かる程有名な話で。思い当たる節があったからである。 (もしかしてセレナさんの生まれ故郷には、人間の始まりと言われる。アダムとイブのような存在がいた世界なのかもしれないよ) (英里さんの世界にあった、旧約聖書に登場する人物のお話ですね?) (それは知ってるんだね)  けど彼女は、その事とは別に驚いたことがあったようで。恐る恐るテレパシーで俺と会話する鳳炎に尋ねる。 「あ、あの、ドラゴン様。今、どなたと話しているのですか?」 (私の御主人(あるじ)とですよ)  鳳炎のテレパシーが聞こえているなら、俺のテレパシーも聞こえているんじゃないかと思ってたけど……。鳳炎の解答に目を丸くした彼女は、俺と鳳炎を交互に見て必死に事態を理解しようとする。
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