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「出てって! 裏切者っ!!」
投げ付けられた枕を顔面キャッチしたストームは、何も言い返さなかった。
柔らかい素材のお陰で、ダメージはないようだけど……。
ーー裏切り者というのは?
意味深な発言に入室のタイミングを逃していると、床に落ちた枕を拾いあげたストームが部屋の中にいる相手に話しかける。
「元気そうで何よりやわ。ワイは席を外すけぇ、フレムの話し相手になってくれへんか?」
しかし、相手からの返答は無く。
機嫌を悪くしているのではとビクビクしていると、拾った枕を俺に託したストームが「後は頼むわ」と言って前方を譲り、部屋を出て直ぐの壁に背中を預けて腕を組んだ。
「僕も後ろ手に控えておくね」
ストームが前を譲ったことで、室内にいた女性の姿を確認する事が出来たけど……。
距離を置いて立つ青いおかっぱヘアの彼女は、ウォームの姿が見えなくなるまで鋭い眼差しを向けた後、少し肩を撫で下ろしてから俺に視線を向けて問う。
「どうして、あんな人達と行動を共にしてるんですか?」
ちょっと強めの口調からして、ウォームやストームと一緒にいる事を余り良くないと思っているようだ。俺は怒られた心境に陥って、弱気な口調で返答する。
「助けてもらった成り行きで……」
言い方は悪いけど嘘ではない。
それでも癪に触ったようで、歩み寄って腕を組んだ彼女は、機嫌悪そうに自己紹介ついでとばかりに俺を叱る。
「あちしは、セレナ=ロイヤル。そこの貴方! ドラゴンに選ばれた身として恥ずかしくないのですか?!」
ーーはて?
それは鳳炎の事を言っているんだろうか?
いつも無条件で助けてしてくれる事から、遣えてる気なんてなかったけども……。
返答に困っていると、鳳炎が相手にテレパシーを送って対処してくれる。
(セレナさん。さすがにそのお言葉は、聞き捨てなりませんね。その価値観は、セレナさんの生まれ故郷だったらのお話しではないのですか?)
すると俺には強気だった彼女は、鳳炎の発言にびくつきながらも言い返す。
「ですが無垢を失われし人間が、貴方の前に立つのは可笑いと思います」
(ーー何のお話しですか?)
話が通じない相手程、難儀なものは無い。
だけど俺は、彼女の価値観が何となく分かってしまった。旧約聖書に登場するアダムとイブの物語の中でも、ちょっと調べれば分かる程有名な話で。思い当たる節があったからである。
(もしかしてセレナさんの生まれ故郷には、人間の始まりと言われる。アダムとイブのような存在がいた世界なのかもしれないよ)
(英里さんの世界にあった、旧約聖書に登場する人物のお話ですね?)
(それは知ってるんだね)
けど彼女は、その事とは別に驚いたことがあったようで。恐る恐るテレパシーで俺と会話する鳳炎に尋ねる。
「あ、あの、ドラゴン様。今、どなたと話しているのですか?」
(私の御主人とですよ)
鳳炎のテレパシーが聞こえているなら、俺のテレパシーも聞こえているんじゃないかと思ってたけど……。鳳炎の解答に目を丸くした彼女は、俺と鳳炎を交互に見て必死に事態を理解しようとする。
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