第60話/渦巻く陰謀論

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「あっ。もしかしてセレナさんは、テレパシー使えなかったりします?」  失礼な質問とは思ったけど……。鳳炎のテレパシーは聞こえて、俺のテレパシーは聞こえないなんて。今までにない特殊な場面に遭遇したので、確認のため彼女に尋ねてみた。  すると彼女は、俺に対しムッとした表情を見せた後、悔しそうに理由を述べる。 「あちしは、選ばれし者じゃないので……」 「選ばれし者?」 「神之声(かみのこえ)はドラゴン様にしか聞こえなくて。ドラゴン様の声が聞こえるのは、兵士(へいし)として(つか)えるためなのです」  つまり彼女の生まれ故郷は、ドラゴンに強いたげられた世界だったりするんだろうか。  その話を聞いた鳳炎は、困った様子で肩を貸す俺にアイコンタクトを送ってきた。  恐らく慰めたくても、ドラゴンである鳳炎が言うと逆効果の可能性があるからだろう。  そこで俺は、無い知恵を絞って確認会話で場を凌ぐことにする。 「えっと。つまりセレナさんは、兵士だからドラゴンである鳳炎のテレパシーは聞こえて。人間である俺のテレパシーは聞こえないってことですか?」 「てれぱしー?」 (私はドラゴンですが、神の代弁を務める程の器では無いという事です。ですから、どうか力を抜いて。ベッドにでも座って、お話をいたしませんか?)  すると素直に「分かりました」と答えた彼女は、ベッドに腰を下ろすと、早く来いと布団を叩いて俺に合図を送る。 (これは私が話を進めた方がスムーズかもしれませんね) (俺もそう思う)  此処が生まれ故郷でないことは、理解しているようだけど……。身に付いたドラゴン絶対主義者は、今でも健在のようだ。  彼女の合図に応えるように左隣に腰を下ろすと、鳳炎が左肩から右肩へと身体を移して対応する。 (それでは、改めて自己紹介させていただきますね) 「はい」 (私の名前は鳳炎。フレム様の守護竜を任されている者です) 「つまり、ドラゴンが人間(ひと)を守っている世界から来たのですか?」 (いえ。私が御主人に遣えているのは、私の意思で有り。私達の生まれ故郷は、共存を重んじる世界ですよ) 「そうなんですか。あちしの生まれ故郷は、神之声が聞こえるドラゴンを筆頭に、聖地を守るのが兵士の務めでした。でも此の世界に来てからは、ドラゴンの代わりに存在する。この世界の神様のために戦っているんです!」  そう言ってドラゴン絶対主義者のセレナは、俺の肩に乗る鳳炎に誉めてもらいたいのか。拳を握って、自信たっぷりに言ってのけてくれたけど……。  この世界の住人であるグレイから、神から見放された世界として聞いていた事も有り。  にわかに信じられなかった俺は、沈黙を保ったまま顎に手を添えた。
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