第60話/渦巻く陰謀論

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(あの、悪魔の間違いではないのですか?) 「誰がそんな事言ったんですか?!」  鳳炎の素朴な疑問に対して、質問で返した彼女は、何故か鳳炎に肩を貸す俺を睨んだ。  明らかに人間である俺が、悪い影響を与えていると思われているようで。彼女の矛先に気付いた鳳炎が優しく宥める。 (セレナさん、落ち着いて話を聞いて下さい。私は此の世界の神様にお会いしたことはありませんが、悪魔とおぼしき人物には会ったことがあるんです) 「あの通路で待ってる者のことでしょう?」  ーーちげぇよ。  自信まんまんで、こうも決め付けで話されると腹が立ってくるのですが……。  俺に無関心な彼女は、相手の不愉快な表情に気付くことなく鳳炎の発言に耳を傾ける。 (いえ。あの方々は、我が主を助けてくれた命の恩人ですから。そのような事は、さすがに思っていませんよ) 「そ、そう、ですか」  セレナは、尊敬するドラゴン様に同意を得られず。あからさまにしょげた様子で返事をすると、何故かジト目で俺を睨んできた。  恐らく俺が、鳳炎に余計なことを吹き込んだとでも思っているんだろう。これは、俺が記憶喪失であることは黙っといた方が良さそうである。 (因みにセレナさんは、この世界の神様とお会いしたことがあるんですか?) (ありません。でも名前は知ってますよ)  だけど、それだけで神様がいるとは限らない。神様の名だけで存在が肯定されるのなら、英里だった頃に世話になっていた世界は神様だらけである。  しかし鳳炎は、相手の話を否定することなく。むしろ頼りにしてるとばかりに、言葉を弾ませてセレナに尋ねる。 (それは興味深いですね。是非教えて下さいませんか?)  ーーうまい!  俺が相手だったら、こうも上手く話を進めれなかったことだろう。そもそもドラゴンに認められてるからといって、人間を信じるような(たち)じゃなさそうだし……。    絶好の機会を邪魔せぬよう耳をそばだてていると、嬉しそうに両手を合わせた彼女は思わぬ名を口にする。 「バアルって言うんです。この世界を潤すなんだそうですよ。表には雨が降らないので」  ーーなるほど。  逆に施設が拠点とする裏では、雨雲が空を覆って湿気が凄い上に、稲妻が走るなんて日常茶飯事。恐らく風の民のストームと雷の民であるサンダーが、特殊能力を使って一時的に凌いでいるんだろうけど……。  ふと脳裏を(よぎ)ったのは、ウェイクの施設で見た地下深くに存在するモノだ。  アレがもしバアルという名の        神聖な存在だとしたら?  持てる知識で想像を膨らませる限り、嫌な予感がして堪らなくなった。 * * * * *
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