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(あの、悪魔の間違いではないのですか?)
「誰がそんな事言ったんですか?!」
鳳炎の素朴な疑問に対して、質問で返した彼女は、何故か鳳炎に肩を貸す俺を睨んだ。
明らかに人間である俺が、悪い影響を与えていると思われているようで。彼女の矛先に気付いた鳳炎が優しく宥める。
(セレナさん、落ち着いて話を聞いて下さい。私は此の世界の神様にお会いしたことはありませんが、悪魔とおぼしき人物には会ったことがあるんです)
「あの通路で待ってる者のことでしょう?」
ーーちげぇよ。
自信まんまんで、こうも決め付けで話されると腹が立ってくるのですが……。
俺に無関心な彼女は、相手の不愉快な表情に気付くことなく鳳炎の発言に耳を傾ける。
(いえ。あの方々は、我が主を助けてくれた命の恩人ですから。そのような事は、さすがに思っていませんよ)
「そ、そう、ですか」
セレナは、尊敬するドラゴン様に同意を得られず。あからさまにしょげた様子で返事をすると、何故かジト目で俺を睨んできた。
恐らく俺が、鳳炎に余計なことを吹き込んだとでも思っているんだろう。これは、俺が記憶喪失であることは黙っといた方が良さそうである。
(因みにセレナさんは、この世界の神様とお会いしたことがあるんですか?)
(ありません。でも名前は知ってますよ)
だけど、それだけで神様がいるとは限らない。神様の名だけで存在が肯定されるのなら、英里だった頃に世話になっていた世界は神様だらけである。
しかし鳳炎は、相手の話を否定することなく。むしろ頼りにしてるとばかりに、言葉を弾ませてセレナに尋ねる。
(それは興味深いですね。是非教えて下さいませんか?)
ーーうまい!
俺が相手だったら、こうも上手く話を進めれなかったことだろう。そもそもドラゴンに認められてるからといって、人間を信じるような質じゃなさそうだし……。
絶好の機会を邪魔せぬよう耳をそばだてていると、嬉しそうに両手を合わせた彼女は思わぬ名を口にする。
「バアルって言うんです。この世界を潤す慈雨の神なんだそうですよ。表には雨が降らないので」
ーーなるほど。
逆に施設が拠点とする裏では、雨雲が空を覆って湿気が凄い上に、稲妻が走るなんて日常茶飯事。恐らく風の民のストームと雷の民であるサンダーが、特殊能力を使って一時的に凌いでいるんだろうけど……。
ふと脳裏を過ったのは、ウェイクの施設で見た地下深くに存在するモノだ。
アレがもしバアルという名の
神聖な存在だとしたら?
持てる知識で想像を膨らませる限り、嫌な予感がして堪らなくなった。
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