第60話/渦巻く陰謀論

8/8
29人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
 ーー助かった。  これから世話になる相手に対して、強い口調で断れなかった俺は、その場をウォームに譲ってしまうと、狭い通信設備から通路へと抜け出して胸を撫で下ろした。 「ったく、油断も隙もあったもんやないな」 「ストーム」  セレナの件で、合流に時間がかかると思っていたのに……。出会い頭、俺の頭をぐりぐりと撫でてきたストームは、ムグルと会話中のウォームの背中を突っつき。無言で旅客スペースがある方角を指差すと、ウォームがOKサインを出したところで移動する。 「用は済んだの?」 「お陰さまでな。それよか、フレム。ウォームが割り込まへんかったら、何言うつもりでいたんや?」 「なにって、何を?」  惚けたつもりはないのだが、ストームに言われて出来事を振り返ってみる。  ーーまぁ思い当たる節なんて、     はなっから無いんだけども……。  首を傾げて見せると、ストームが溜め息混じりに「もぉええわ」と言って、座席にどっかりと座った。 (不貞腐れましたよ) (別に何か隠してる訳じゃないんだけどな)  鳳炎のテレパシーを受けて、小さくため息を吐いた俺は、さすがに気疲れを起こしようで。八つ当たりしないためにも、ストームからちょっと距離を置くように、通路を挟んだ隣の座席に腰を下ろした。 「あれ? 喧嘩でもしたの?」 「別に、そんなんじゃあらへん」 「あっそ」  通信を終えてやってきたウォームに、ストームが無愛想に答えると、今度は空気を悪くしないよう沈黙を保っている俺に向けて、ウォームが話しかけてくる。 「ムグルが、友達と遊ばずに帰るのか? って、気にしてたよ」 「忙しいんじゃないの?」  相手は仕事のために異世界に来てるのだ。  会ってどうしてるか確認するだけして、帰ろうとしか考えていなかった俺は、ちょっと期待を抱いてウォームに尋ねた。  すると申し訳ないとばかりに眉を潜めたウォームは、「そこまでの事は聞けなかったけどね」と応えると、ムグルから聞いてきた話を付け加える。 「御薙(みなぎ)君と(はな)さん? は、まだ謹慎中で。この世界から離れてるようだけど……。他の友達は、フレムと遊べないか聞いてきたそうだよ」 「それは嬉しいけど……。先約を優先したいから、都合によるとしか今は言えないよ」  まさか異世界で遊べるとは思ってもいなかったし、腕を組んで、これからの予定をシミュレーションしてみるけど……。急な予定(こと)で、必要なことを話すだけ話したら約束の時間になるイメージしか出来なかった。  それに、ようやく築けた信頼を崩すようなこともしたくないし……。気持ちを優先させると、破滅フラグしか立たないので、今回の誘いは断ることにした。 「じゃあ友達と遊ぶ予定はないんだね?」 「うん。今の俺にとって、ラーリングも友達だしね。遊ぶ予定を立てるなら、相手の都合を聞いてからにするよ」  すると「懸命やな」と答えたストームは、気分が晴れたのか。腰を上げて「離陸の準備してくるわ」と言って出ていった。 (……怒らせた訳じゃないよね?)  離陸の準備があるなら、こんなところでゆっくりしてる余裕なんてないと思うんだけど……。  ストームが立ち去った後にテレパシーで尋ねると、腕時計で時間を確認したウォームは小さく笑って(気にしすぎだよ)と答えた。 【完/渦巻く陰謀論】
/314ページ

最初のコメントを投稿しよう!