第61話/厳重な引き渡し対象は俺です

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「フレム様、御到着いたしました」  あれから流れる景色を堪能していると、車が停まって、ルシウェルが一言添えてドアを開けてくれた。 「僕から降りるよ」  下車しようと腰を上げた俺をウォームが引き留めると、先に車から降りて周囲を警戒。  安全を確認したところで下車を促されるけど、周囲は戸建ての住宅地で、一車線を堂々と塞いでる高級車が逆に目立つぐらいだ。 (此処?) (みたいですよ)  下車して真っ先に目に入った門扉を前に、テレパシーで俺が疑問を投げ掛けると、鳳炎がテレパシーで返答して家を見上げた。  総2階のローコスト住宅にしては、周囲に比べて真っ白な壁は、英里として生活していた世界と大差ない外見の新築。  WPの職場と言うには生活感があり、プライベートな住宅にしては違和感がある程、周囲に溶け込みきれてはなかった。 「戸建て住宅は、最高の贅沢なんやで。庭木とか植えてあんのも、金持ちアピールや」 「そうなんだ」  英里だった世界では、土地さえあれば庭も畑もあったもんだけど……。この世界では、緑の豊かさですら裕福の象徴らしい。  車から降りず、車内の窓を開けてまで説明してくれたストームに相槌を返すと、俺の名を呼んで手招きするウォームに、「はーい」と返事をして駆け寄った。 「チャイム押してみる?」  防犯のため閉まっている門扉。  良い経験だと思って譲ってくれたんだろうが、迷うことなくチャイムを鳴らしてからカメラの存在に気付いた。 (手を振ればいいのかな?)  英里として世話になっていた世界にもある機能だけど、賃貸の自宅や身近な友達の家には無かった設備なので初めての体験だ。  するとスピーカーから「ちょっと待っててね」と聞き覚えのある声がして、ソワソワしながら暫く待っていると、玄関からムグルが顔を出した。 「いらっしゃい。待ってたよ」  閉ざされていた門扉を開けて、快く向かい入れたムグルは、WPの制服姿ではなく。私服にしては、フォーマルなスタイルで登場。  ただ思わぬ護送に驚いて、早速何事かと疑問視された。 「凄い送迎スタイルだね」 「教皇様が、フレム殿をご案内するよう仰せ付かってのことです」 「そうなんですか。ではボク等も失礼がないよう、気を引き締めてご対応させていただきます」  眼光鋭く答えたルシウェルに対し、丁寧に頭を下げて応えるムグル。そこで俺は、ようやく教皇様が俺を国賓として扱う最大の理由に気付いてしまった。  ーー首輪を付けられた感が否めないな。  WPもさすがに、国賓として招かれた俺を無断で元の世界に還す事は出来ないだろう。 「夕方の4時には迎えに行くよ」 「予定が早まるようでしたら、此方に御連絡して下さると助かります」 「分かりました」  ウォームに続いて、ルシウェルもムグルにではなく。俺に連絡先を渡すところからして、随分WPを警戒しているようだ。
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