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「まったく。後で紹介してあげるよ、って言ったのに……」
「好奇心に負けたんですね」
ーー気持ちはよく分かる。
現在進行形で俺も盗み聞きしていた人が気になり、せっかくのチャンスを水の泡にしてしまった気分だ。
けど盗み聞きしていた二人の事情を知るムグルは、呆れた様子を見せながらも「まぁ無理もないか」と前置きして話を続ける。
「君が英里さんとして生活していた世界を知る。緻禅 由梨さんと穂聖 陣くんだよ。関東育ちだから、西日本育ちの英里さんとは顔見知りじゃないと思うけどね」
そう言ってムグルは、一旦ドアを閉めた。
まだ彼らを紹介するのは早い、と判断したんだろう。惜しい事をしたと思った反面、ムグルが関東を知ってることに関心を抱く。
「ムグルさん、関東とか知ってるんですね」
「フレム君の話を少しでも理解したくって、華さんや御薙くん達に色々教えてもらったんだよ。ボク等の間では、information worldと呼んでいる世界のことをね」
「い、インタメーション・ワールド?」
鳳炎から聞いたことがない単語が飛び出して、オウム返ししたけど……。聞いたことのある発音からして、英里として生活していた世界の言語なのだろう。ムグルは、教えてもらったことを思い出すように説明する。
「エイゴ? っていう言語で、情報世界って言う意味らしいんだけどね。その世界に辿り着くためには、情報体でなければならないルールがあるとかで。魂となって行き来するか、ラジオ、テレビ、パソコンなんかの。情報を発信する機器を利用しなければ、ボク達の存在が認知されない世界の事だよ」
そう言って席に歩み戻ってきたムグルは、興味津々で話を聞く俺を見て。嬉しそうに口角を上げてながら椅子を引くと、腰を下ろして話をまとめる。
「要は生身の肉体を転移させようとすると、世界の浸食に合い。死に至る世界であることから、ボク等が実現出来ない世界と言われているんだ」
「じゃあ世界の浸食? て言うのは?」
(その世界の秩序に従って、身体に及ぼす影響のことです)
「今フレム君の肉体は、持ち前の耐性能力で異世界に順応しているんだけど……。それは、海底に行くなら潜水艦に乗ったり、酸素の無い宇宙でも活動出来るよう。身体が自動的に宇宙服の役割を担っているからだよ」
俺が理解出来ないとばかりにオウム返しすると、鳳炎がテレパシーで補足。更にムグルが説明を追加することで、彼らが言いたい影響が何となくイメージ出来た。
「だけどinformation worldは、それが通用しない。行くとしたら、自身の代役を情報体……。えっと、アバターって言えば伝わるかな?」
「うん」
「それを作って、情報体として紛れるか。夢を介して会うことしか出来ない、特殊な秩序で守られた世界なんだよ」
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