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「へー、何となく分かった」
まさか今まで当たり前だと思って生活していた世界が、そんな特殊な環境とは知らなかったので。ムグルの話でワクワクとした感情を高ぶらせた俺は、色んな考えを巡らせた後に、その世界が産まれ故郷ではなくなったことを痛感する。
「その話によると、肉体を得た今。英里の世界へ容易には行けない、ってことですか?」
「理論上ではね。だけど君は……。君達は、魂の共鳴によって知り得た人物が存在する。そのため、特別待遇が成されてるみたいでね。簡単に言ってしまうと、その世界の神様が君達を余所者とは扱いきれない部分があるみたいで。その世界から離れる時、ギフトを与えられたみたいなんだよ」
「ギフト?」
起きた時、鳳炎ぐらいしか目に入らなかったけど……。彼はギフトとは違うだろうし、他に何かあったという事だろうか?
記憶が曖昧なので、隣の椅子を止り木代わりにしている鳳炎を一瞥すると、それもらしい物はなかったとばかりに首を横に振った。
「その様子からすると、貰った記憶はなさそうだね」
「すみません。起きたら此の姿で、傍にちびドラゴンの鳳炎がいて……。荷物とか所持金んてなかったもんだから、本気でアルバイトしようかと思ったぐらいなんですけど」
「まぁ所持金がゼロっていうのは、しょうがないとしても。所持品もないっていうのは、ちょっと不思議なもんだね。皆何かしら1つは持ってる状態だったそうだから……」
そう言って腕を組んで考え込み始めたムグルは、暫くして「ヨシ」と言って立ち上がると、「ちょっと確認してくるね」と俺達に伝えて出ていった。ーーと、思ったらひょっこり戻ってきて、行儀よく座ってる俺に言う。
「待ってる間、キッチンにある和菓子を摘まんでもいいからね。お茶も好きなように入れて、リラックスしといて」
ーーえっ?
随分軽く言ってのけてくれてるけど……。
俺は、この家の住人じゃなくて客人だ。
勝手に他人様のキッチンを漁ってたら、事情を知らない誰かに後ろ指差されること間違いなさすぎて動けなくなる。
(昔の感覚で行かれましたね)
(と言うことは……。俺とムグルは、それ程仲が良かったんだろうね)
チラッと思い出した記憶からして、そうなんじゃないかとは思ってたけど……。まさか勝手しったるなんとやらな関係だったとは、思いもしなかった俺は、テレパシーで(はい)と肯定した鳳炎の返答を聞いた後に罪悪感が沸いてきた。通りで、呼び捨てでも構わないと彼が言ってくるはずである。
(でも、無理に関係を昔に寄せなくても良いと思いますよ。職業柄洞察力が鋭いので、直ぐバレると思いますから)
ーーですよね。
俺も無理して関係を戻しても、墓穴を掘るだけだと思ったので、申し訳ないと思いながらも、暫くはさん付けで通すつもりでいる。
それだけ気持ちが追い付いていないのだ。
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