第62話/我が身を守るためには

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(それにしても困りましたね) (お代わりほしいんだけどな)  けれど礼儀を欠いて、何かあってはと考えてしまうと行動に移す勇気がなくて。ひとまず皿に残っていた茶菓子をたいらげ、暇を弄ばせていると__。 「おい。茶菓子のおかわり、いるか?」  リビングと通路を挟んだドアが開いて、姿を現したのはムグルではなく。ストームと同じようにワックスで髪を逆立てた黒髪の男だった。  ーー前髪は染めているんだろうか?  ロックバンドでギターでもひいてそうな、人前に立つ気の強さを感じるけど……。  俺が気負いしながらも頷いて見せると、キッチンから容器ごと和菓子を持って来て。それをドアの隙間から見ていた女性が、慌てて引き止める。 「ちょっと、品なさ過ぎでしょ?!」 「いいだろ、別に。コイツが食えないもんを選ぶより、好きなもんを選ばした方が確実だろ。まっ、緑さんの手作りに外れはないだろうけどさ」  すると一理あると納得してか。女性はそれ以上のことは言わずに、「それじゃあ私がお茶のお代わりを出すわ」と言ってキッチンへと移動した。 (助かりました) 「気にすんなよ。なんかムグルとギフトの話をしてたようだけど……。お前、本気(マジ)で持ってないのかよ」  自己紹介もせずに、テレパシーで話しかけてきた鳳炎に声を出して返答すると、茶菓子を差し出して尋ねてきたので。俺は、頷いて見せてから質問する。 「それ、絶対貰えるもんなんですか?」 「どうだかな。蓮はパソコンだったけど、俺や他の皆は携帯電話だったし……」  ーーて言うか、蓮って誰?!  他の皆っていうのも、誰を差しているのか全然分からないので。首を捻って、疑問符をいっぱい頭に浮かべていると、男が思い出したように自己紹介をする。 「あっ。俺の名前は、(じん)。苗字とか本名とか、なんか色々あんだけど……。今愛用してんのは、陣って名前だけだからヨロシクな。早く好きなもん取れよ」 「あ、ありがとう……」  そこで俺は、容器の中から赤い紅葉を模した練り切りを選んで皿に移すと、ムグルが座ってた真向かいの椅子に陣が座って緊張が走る。気の強そうな男は苦手だ。  けれど今度は、茶のお代わりをを淹れて来てくれた彼女が話しかける。 「ねぇ。もしかして、私達とはルート違うからじゃないの?」 「あー、それはあるかもしれないな」 「でしょ?」 「なぁお前、夢渡りで此処に来たのか?」 「……その前に、じゃなくて。フレムと呼んでほしいんだけど……」  フレンドリーなのは構わないんだけど、軽々しくお前と言われると、上から目線で言われてるようで不愉快に感じた。  すると感情が表に出てたようで、申し訳なさそうに眉をひそめながらも、軽い口調で謝罪してくれる。 「悪るいな。なんかさん付けすると違和感あるし、だからと言って突然呼び捨てにすんのもどうかと思ってさ」 「あっ。私の事は、由梨(ユリ)って呼び捨てにしてくれて構わないから♪」 「おい。相手は記憶あいまいで、俺達のこと。呼び捨てはハードル高いだろ?」
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