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(それにしても困りましたね)
(お代わりほしいんだけどな)
けれど礼儀を欠いて、何かあってはと考えてしまうと行動に移す勇気がなくて。ひとまず皿に残っていた茶菓子をたいらげ、暇を弄ばせていると__。
「おい。茶菓子のおかわり、いるか?」
リビングと通路を挟んだドアが開いて、姿を現したのはムグルではなく。ストームと同じようにワックスで髪を逆立てた黒髪の男だった。
ーー前髪は染めているんだろうか?
ロックバンドでギターでもひいてそうな、人前に立つ気の強さを感じるけど……。
俺が気負いしながらも頷いて見せると、キッチンから容器ごと和菓子を持って来て。それをドアの隙間から見ていた女性が、慌てて引き止める。
「ちょっと、品なさ過ぎでしょ?!」
「いいだろ、別に。コイツが食えないもんを選ぶより、好きなもんを選ばした方が確実だろ。まっ、緑さんの手作りに外れはないだろうけどさ」
すると一理あると納得してか。女性はそれ以上のことは言わずに、「それじゃあ私がお茶のお代わりを出すわ」と言ってキッチンへと移動した。
(助かりました)
「気にすんなよ。なんかムグルとギフトの話をしてたようだけど……。お前、本気で持ってないのかよ」
自己紹介もせずに、テレパシーで話しかけてきた鳳炎に声を出して返答すると、茶菓子を差し出して尋ねてきたので。俺は、頷いて見せてから質問する。
「それ、絶対貰えるもんなんですか?」
「どうだかな。蓮はパソコンだったけど、俺や他の皆は携帯電話だったし……」
ーーて言うか、蓮って誰?!
他の皆っていうのも、誰を差しているのか全然分からないので。首を捻って、疑問符をいっぱい頭に浮かべていると、男が思い出したように自己紹介をする。
「あっ。俺の名前は、陣。苗字とか本名とか、なんか色々あんだけど……。今愛用してんのは、陣って名前だけだからヨロシクな。早く好きなもん取れよ」
「あ、ありがとう……」
そこで俺は、容器の中から赤い紅葉を模した練り切りを選んで皿に移すと、ムグルが座ってた真向かいの椅子に陣が座って緊張が走る。気の強そうな男は苦手だ。
けれど今度は、茶のお代わりをを淹れて来てくれた彼女が話しかける。
「ねぇ。もしかして、私達とはルート違うからじゃないの?」
「あー、それはあるかもしれないな」
「でしょ?」
「なぁお前、夢渡りで此処に来たのか?」
「……その前に、お前じゃなくて。フレムと呼んでほしいんだけど……」
フレンドリーなのは構わないんだけど、軽々しくお前と言われると、上から目線で言われてるようで不愉快に感じた。
すると感情が表に出てたようで、申し訳なさそうに眉をひそめながらも、軽い口調で謝罪してくれる。
「悪るいな。なんかさん付けすると違和感あるし、だからと言って突然呼び捨てにすんのもどうかと思ってさ」
「あっ。私の事は、由梨って呼び捨てにしてくれて構わないから♪」
「おい。相手は記憶あいまいで、俺達のこと覚えてもないのに。呼び捨てはハードル高いだろ?」
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