第62話/我が身を守るためには

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 言い方からして、陣と由梨も教わって知った口ぼいけど……。鳳炎が俺を守護してくれることで、本物の鳳龍 雄だと証明しているのなら安心だ。まだ感情がついてこなくて、自信がないにしても、今までの経緯を考えて鳳炎なら信じられると思った瞬間だった。  そして、お互い色々と話したい雰囲気ではあったものの。何かしらの気配を察知して天井を見上げた陣は、ゆっくり椅子から腰を上げて別れを告げる。 「さぁて。わりぃけど、ここでおいとばしのようだな」 「また後でね」  急ぎ容器から練り切りの和菓子を1つ盗んで立ち去る陣とお盆をテーブルの上に置き去りにして、その後を追う由梨。通路でムグルと鉢合わせになるんじゃないかと思ったが、ドアを開けて右折した二人に対し、左側の通路からやってきたのか。ムグルはドアを開けて、「逃げ足は早いんだから」とぼやいた。 「お帰りなさい」 「お待たせ。暇をもて余してた訳じゃなさそうだね」 「お陰様で」  しかもムグルにまだ話してない事を喋っていたので、何を話してたのか問われるんじゃないかと思ってたけど__。   ムグルは、「それは良かった」と愛想良く返すぐらいで、自身の話題を進める。 「ちょっとギフトを貰った時の過程を聞いてきたんだけど……。夢渡りの途中、長い金髪(ブロンド・ヘア)の白いドレスを来た女神様に会わなかった?」  つまり夢渡りでギフトを貰った人は、もれなく女神様に会っているのだろう。  陣や由梨も同じ夢渡りとは言え、経由が違うから貰えなかったんじゃないか。と仮説を立ててたし……。確かに、この世界に辿り着く前に女神様と会った記憶はない。 「多分、会ってないと思うけどーー」  はっきりと言えない訳は、意識が飛んでる最中に会ってる可能性があってのことだ。  隣の椅子を止まり木代わりにしている鳳炎に視線を送ると、ムグルは何故曖昧な返答をするのか理解した様子で鳳炎へと視線を移し、黙りを決め込んでいた鳳炎がようやくテレパシーで答える。 (私も女神様にはお会いしていません) 「にはね。じゃあ誰に」  ーーと、ムグルが鳳炎に重ねて質問しようとしたところで。答える気はないとばかりに、鳳炎が俺の方を見たので、ムグルは溜め息混じりに質問する相手を変える。 「フレム君。夢の中で、何でもいいから覚えてることってないかな?」 「何でも?」  そう言われると返答に困るというか。  英里に見送られた以外の事があるとすれば、鳳炎に(かつ)がれたぐらいしかない気もするけどーー。 「英里に、ウィズドゥレットには気を付けて。と言われました」  俺は、暫く返答に悩んでから印象に残ってる忠告をムグルに伝えた。そもそも英里と鳳炎ぐらいしか、夢渡りと言われる現象の中で会わなかった気がするけど……。  ウォームと同じで、急に不機嫌そうな顔色を浮かべたムグルにオウム返しされる。 「ウィズドゥレットに?」 「はい」 「フレム君は、その夢の中で。ウィズドゥレットに会ってたりするの?」  肯定した俺の様子を伺ったムグルは、鳳炎を一瞥(いちべつ)してから、再び俺に質問した。  恐らく鳳炎にテレパシーで尋ねても、何も答えてくれなかったんだろう。嘘吐いたら俺の印象が悪くなるだけだし、誤解されても面倒なので。俺は「いえ」と否定しながらも、続けて話をする。
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