第63話/今も昔も変わらぬ思考回路

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「ボク等は、この空間で研修や通信、戦闘訓練を行っているんだけど。秘密兵器は、この〈時の間〉と呼ばれる部屋だよ」  左右交互に両開きの自動ドアがあったが、お目当ての部屋は通路の突き当たりに、異様な魔法陣と共に設定画面が整った手動ドアであった。 「中に入ると、時が遅く感じるとか?」 「そんなもんだよ。今回は、5分で1日計算にしようかな」 「5分で?!」  つまり1時間で、12日間過ごせる設定にすることで。ゆっくり話を聞きながら、俺の戦闘力を上げようという魂胆なんだろう。 「気が滅入りそうなんですけど……」 「大丈夫だよ。日替わりで景色が変わるし、食事や寝床もちゃんとした所だから。午後3時まで頑張ってみようか」  ーー爽やかにスパルタ・コースだな。  でも二・三時間で戦闘力なんか上がらないし、自分の実力を知る良い機会だ。  命も狙われた事だし、いつも鳳炎に頼ってばかりではいられない。俺は、弱気な自分を奮い立たせてから頷き返した。 「最低でも1ヶ月は我慢してもらうよ」 「三時間ぐらいってこと?」 「それでも時間が足りないぐらいだけどね。まずはフレム君自身の実力を測って、徹底的に得意分野を伸ばすところから始めようか。一回ガチで戦闘したことがあるんでしょ?」 「へ?」  時の間の設定を済ませ、扉を開けたムグルの質問に、俺は間の抜けた反応を返した。  ーーていうか。  まともに戦闘したことなんてあったっけ?  強いて思い当たる事があるとすれば、セイクの施設でアナト化した人間相手に交戦したぐらいだけど……。相手の攻撃を回避し、ウォームが時間稼ぎしている間に魔法を一発発動させたぐらいだ。あれを本気(ガチ)の戦闘と言ってはいけないような気がする。 (ムグルさん。今の御主人は、素手による喧嘩も出来ませんよ) 「え? でも報告書にはーー」  鳳炎にテレパシーで指摘され、受けた報告書を思い出しているのだろう。視線を天井に向けたかと思えば、「あれ?」と言って視線を右往左往した後に俺に問う。 「ウォームの施設で、初めて魔法を使った時は?」 「鳳炎の力を向上(アップ)して、倒してもらいました」  尚、それ以外は逃走してたとも言う。  するとムグルは、続けて「じゃあセイクさんの施設の時」と言ってくるが、俺は残念と言わんばかりに真実を伝える。 「暫く攻撃の的になりましたが、反撃はしてません。途中ウォームに任せて、一発魔法をぶっ放したぐらいです」 「でもストームさんの施設の時は」 「あれは鳳炎に守備を任せて、魔石に魔力を注ぎ込んだ結果。急成長した、相手を串刺しにしただけです」  言い訳に聞こえてくるかもしれないけど、嘘は言って無いはずだ。どのような報告の受け方をしているのか知らないけど、頭を抱え始めたムグルは確認を続ける。
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