第63話/今も昔も変わらぬ思考回路

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「そうなると、ウェイクさんの施設の時はどうしたの?」 「銃口を向けてきたLider(リデア)隊員には、魔法を使いましたけど……。戦闘にはなってないので、ノーカンになりませんか?」 「じゃあ街中にアナトが出現した時は?」 「魔法で束縛はしましたけど、(とど)めはキアって言う死神がしたので」 「だけど今回、命を狙われたんだよね?」 「まぁ殆んどの攻撃は鳳炎が防いでくれて、俺は守護獣を召喚した後、突っ立って相手と話してたぐらいですけど……」 「謙遜しなくてもいいんだよ?」 「いえ、本当の話なんですが……」  大体ムグルは、一体どんな戦闘をイメージして本気(ガチ)と言ったのだろうか?  記憶上では、戦争とは無縁の日本育ちなので。どの程度の交戦が本気に値するのか、今一つ分からなくて申し訳ないけど……。 「じゃあフレム君から攻撃を仕掛けたり、相手の攻撃に合わせて反撃した経験は?」 「無い、ですね。挑発行為も、何か言ってやるのが精一杯だったと思いますので……」  大体ゲームじゃないんだから、手を出して痛い思いをするぐらいなら、逃げた方が得策だと思うのは浅はかな考えだろうか?  それに鳳炎やウォームが、ほぼ付きっきりでボディーガードしているのだ。わざわざ危ない目に合う必要もないと思うのだが……。 「変わったね。女性だったからかな?」 (かもしれませんね)  ーーおい。  どんだけ血の気多かったんだよ、自分。  ムグルの発言にフォローしない鳳炎の様子からして、やったらやり返すぐらいの強気な自分をイメージするけど……。それは己の実力を知り尽くしてるからこそ出来る行為だ。  今の俺にはハードルが高すぎて、怖いとしか思えない。 「でもまぁ、御薙(みなぎ)くんがそんな感じだったらしいんだよね。身を守るにしても火力が凄いから、家臣に極力素手で対応してくれとせがまれて。自身の身体能力を把握した後、勘を取り戻したようだけど……。健康診断で視力検査とかした?」 「一応」 (だけど動体視力は調べていませんね) 「じゃあ身体能力を知るためにも、まずはフレム君にバットを振ってもらおうかな」  そう言って、時の間に入室したムグルを追いかけて中に入ってみると、上の階に比べてだだっ広いリビング・ダイニングから手入れが行き届いた庭が見えた。 「立派な異空間ですね」 「不老者以外立ち入り厳禁だけどね」 「どうして?」  いつの間にか俺の肩から離れた鳳炎は、人型へと姿を変え。辺りを見渡しながら一言感想を述べると、ムグルが注意事項を口にしたので尋ねてみた。  俺の感覚的には、海外でも人気のある某アニメのように。短期間で強くなるための修行場として、最適な空間だと思ったからだ。  するとムグルが、ヒントを出すように「歳を気にしなければ問題ないけどね」と答えてくれたことで理解する。 「世界の浸食?」 「その通りだよ。今回は、5分で24時間設定だけど。もし5分で356日設定にすれば、1時間で12年も歳をとることになってしまう。寿命に限りがある生命体には致命的なことだし、悪用することも出来るから、利用者を制限しているんだよ」 「と言う事は、此の場にいる全員不老者?」 「まぁね。それでも君が年長さんだけど」  ーー嫌味ですか?  遠回しに、ボクの方が若いと言ってるように聞こえるんですけど……。何はともあれ、バットを振るためにリビングからウッドデッキに出ると、青空を照らす太陽を見上げた俺は、そこから得た知識を口にする。
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