第63話/今も昔も変わらぬ思考回路

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「高度な、幻夢の魔法……?」  ーー(いや)、それだけじゃない。  時空魔法を基盤にして、様々な属性の魔法を組み合わせているようで。まるで美しい織物を目にしたような感動を覚えた。 「此処(ココ)は、高度な時空魔法と幻夢の魔法で造られた。傑作だよ。幻夢の魔法によってイメージした物を具現化するために、魔力を粘土代りにしたとか言ってたけど……。何か思い出した?」  ーー幻夢を具現化。  つまり昔の俺は、幻に過ぎない物を魔力で実体を与え。それを固定するために時空魔法を使用し、装飾がてらに四代元素をあしらった感じだろうか。  ーーバットぐらいなら創れるかな?  今の実力では、お邪魔している異空間の再現なんて到底無理だけど……。構造が単純なバットならと、無詠唱でイメージと感覚だけで創ってみた。  ーーあっ、強度考えてなかったーー  とりあえず軽く振り回して見た後、ウッドデッキから芝生の庭に移って再調整。学校でソフトボールの授業でしか、バットなんて(にぎ)ったことないけど……。  ーーこんなもんかな?  ある程度の重さがあるし、振ればビュンと景気よく風が鳴る。 「見せて」  失敗作なら俺の手から離れた瞬間、形が保てなくなって消滅するはずだけど……。  右手を前に差し出して、ウッドデッキから降りてきたムグルに創りたてのバットを渡したところ、消滅することなくバットを振れたので成功のようだ。 「上出来だよ」 「ホント?」 「ついでにボールを(いく)つか作って、キャッチャーの代わりにネットを張ってくれると助かるんだけどな」 「わ、分かった。頑張ってみるよ」  だけどバットに比べて強度や大きさに手こずり、休憩がてら遅い昼食となった。 「これでも、まだ5分も経ってないってことなんだよね?」  異空間のリビングにある2つの時計を見比べると、右は後二時間程で迎えが来る時間帯なのだが、左側の時計は動いてるかさえ分からないぐらいの早さで針が進んでいる。  理屈は何となく分かるけど、不思議だ。  テレビやラジオといった情報源はないけど、見るもの全て真新しく感じて飽きない。  食卓テーブルに料理が並ぶまでの間、座ったり立ったり、外を眺めたてみたりと、キッチンから見える範囲でソワソワしていると、料理を運びだした鳳炎に気付いて席に戻る。 「鯖の味噌煮だ!」 「幸紀(ゆき)ちゃんから聞いたよ。おからは準備出来なかったけど、鯖の味噌煮が好きなんだって?」 「うん、丸太切りのやつ」  上品に三枚卸しされた鯖の味噌煮が出てきたが、英里の実家は包切りが定番。見た目が丸太のようなので、自作言語で普段食べている様子を表現すると、一瞬考えこんだムグルは何が言いたいのか理解して答える。 「結構豪快なんだね」 「ムグルが(さば)いたの?」 「まぁね。味付けが薄いかもしれないけど」 「気にしないよ」  そう言って俺が手を合わせると、ムグルと鳳炎も合掌。声を合わせて「いただきます」と感謝を口にすると、早速味噌煮を摘まんだ俺は、真っ白の炊きたて白米を頬張り。口に広がる旨味を幸せいっぱいに噛み締めた。
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