第63話/今も昔も変わらぬ思考回路

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「美味しそうに食べるね」 「いや、本当に美味(うま)いですよ」  ーー可能であれば、おかわりを貰いたい。  そんな事を考えながらムグルの発言を返すと、彼は何か言いそうになって止めた。 「何か気になる事でもあるんですか?」  場の雰囲気を考えて、遠慮しているのならと思い。今度は俺からストレートに尋ねてみると、一旦箸を止めたムグルは、少し考えてから率直に質問で応える。 「君は、自分の意思で施設を味方しているのかい?」  それは、ある意味当然の疑問だった。  衣食住が保証されているとは言え、先程出された和菓子や今食べている鯖の味噌煮は、WPの独自ルートで食材を得ているから出来ることだろうし……。顔見知りがいる方が、安心出来る環境だ。それでも俺が単独行動する理由をムグルは知りたいんだろう。  魚を(ほぐ)していた手を止めた俺に、ムグルは逃げ道を与えるように質問を重ねてくる。 「それとも弱味を漬け込まれて?」 「__そう見えます?」 「(いや)。その様子だと、何か考えがあってのことだろうね。まぁだからと言って、施設を全面的に信用してるようにも見えないけど……」 「まぁそうですね。俺が信用しているのは、あくまで個人単位の話ですよ」  するとムグルは、肩の荷を下ろしたように「さすがだね」と応えて。緊張で乾いた喉を潤すように、冷えたお茶を口にした。 「因みにボクへの評価は悪くないのに、警戒する理由は?」 「話を大きくしないためです。ムグルさんは、ラーリングと言う。月の民をご存知ですか?」  個人的に気にしてほしい人物の名をあげると、ムグルは眉を潜めて復唱した後、少し間を空けて「いや」と否定した。 「でも確認してくるってことは、魔族を宿した月の民本人の名前なんだろうね」 「はい、名をラーリング=グレイト。(とし)は覚えてませんけど、俺と知り合ったのはWP(ワッポ)で働いてた時の事です。幼い子供相手に、随分酷い聞き取り調査を行って。ラーリングを庇ったスフォームの力に驚いたのが、騒動の切っ掛けだったと思います」 「ちょっと待って、フレム君。WPで働いてたことを覚えてるのかい?」 「いえ。ただラーリングの事を思い出したことで、警察官として働いてたことを思い出しただけですから……。どんな仕事をして、どんな人間関係を築いていたのかまでは覚えてません」  実際ムグルの事は、思い出したと言える程何か知ってる訳じゃないし、WPが抱えそうな事情も知らないのが現状だ。 「まぁそう簡単に事が上手く運ぶ程、人生甘くないか。それでも、此方(こっち)としては凄い収穫だけどね」 「そんなに情報提供がないんですか?」 「あっても信憑性に問題があるんだよ。今のところ、フレム君の情報が一番信用出来ると言われてるぐらいだからね」 「そ、そうなんですか」  でも仲間内の情報が信用ならないって、どういった状況下で働いているんだろうか?  とりあえず嘘を言っている訳ではなさそうなので、WPからかの情報は鵜呑みにしない方が良さそうだけど……。
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