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「美味しそうに食べるね」
「いや、本当に美味いですよ」
ーー可能であれば、おかわりを貰いたい。
そんな事を考えながらムグルの発言を返すと、彼は何か言いそうになって止めた。
「何か気になる事でもあるんですか?」
場の雰囲気を考えて、遠慮しているのならと思い。今度は俺からストレートに尋ねてみると、一旦箸を止めたムグルは、少し考えてから率直に質問で応える。
「君は、自分の意思で施設を味方しているのかい?」
それは、ある意味当然の疑問だった。
衣食住が保証されているとは言え、先程出された和菓子や今食べている鯖の味噌煮は、WPの独自ルートで食材を得ているから出来ることだろうし……。顔見知りがいる方が、安心出来る環境だ。それでも俺が単独行動する理由をムグルは知りたいんだろう。
魚を解していた手を止めた俺に、ムグルは逃げ道を与えるように質問を重ねてくる。
「それとも弱味を漬け込まれて?」
「__そう見えます?」
「否。その様子だと、何か考えがあってのことだろうね。まぁだからと言って、施設を全面的に信用してるようにも見えないけど……」
「まぁそうですね。俺が信用しているのは、あくまで個人単位の話ですよ」
するとムグルは、肩の荷を下ろしたように「さすがだね」と応えて。緊張で乾いた喉を潤すように、冷えたお茶を口にした。
「因みにボクへの評価は悪くないのに、警戒する理由は?」
「話を大きくしないためです。ムグルさんは、ラーリングと言う。月の民をご存知ですか?」
個人的に気にしてほしい人物の名をあげると、ムグルは眉を潜めて復唱した後、少し間を空けて「いや」と否定した。
「でも確認してくるってことは、魔族を宿した月の民本人の名前なんだろうね」
「はい、名をラーリング=グレイト。歳は覚えてませんけど、俺と知り合ったのはWPで働いてた時の事です。幼い子供相手に、随分酷い聞き取り調査を行って。ラーリングを庇ったスフォームの力に驚いたのが、騒動の切っ掛けだったと思います」
「ちょっと待って、フレム君。WPで働いてたことを覚えてるのかい?」
「いえ。ただラーリングの事を思い出したことで、警察官として働いてたことを思い出しただけですから……。どんな仕事をして、どんな人間関係を築いていたのかまでは覚えてません」
実際ムグルの事は、思い出したと言える程何か知ってる訳じゃないし、WPが抱えそうな事情も知らないのが現状だ。
「まぁそう簡単に事が上手く運ぶ程、人生甘くないか。それでも、此方としては凄い収穫だけどね」
「そんなに情報提供がないんですか?」
「あっても信憑性に問題があるんだよ。今のところ、フレム君の情報が一番信用出来ると言われてるぐらいだからね」
「そ、そうなんですか」
でも仲間内の情報が信用ならないって、どういった状況下で働いているんだろうか?
とりあえず嘘を言っている訳ではなさそうなので、WPからかの情報は鵜呑みにしない方が良さそうだけど……。
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