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つい身構えた様子で尋ねると、ムグルは確信を得たような微笑みを浮かべ。まず手の内を見せるように、大まかな情報を口にする。
「彼の行動範囲が表から裏に変わったようなんだ。しかもアナトを退治するのに、死神ならではの特殊能力を使わなくなったんだよ」
「魂の救済、でしたっけ?」
確認のため片付けを終えた鳳炎に目配せすると、彼は静かに頷いて発言を控えた。
「君達の知り合い、という訳ではなさそうだね。彼に会いたがってる噂を耳にしたんだけど、心当たりは?」
「ありますよ。落とし物を拾ったので、彼にお礼も兼ねて直接渡そうかと思って」
そこは素直に話しておくべきだろうと思って、ポケットに忍ばせていた落とし物を出して見せると、ムグルが手を伸ばしても届く食卓テーブルに置いた。
「指輪?」
「触っても大丈夫ですよ」
「__魔法アイテムじゃなさそうだね」
軽率に触ろうとせず、魔力を宿した代物ではないことを確認した後、ムグルは落とし物を手にしてーー。
「……。」
指輪の内側に彫られたネームを確認するや、険しい表情を浮かべて卓上に戻した。
「もし彼に会うつもりなら、独りで会うような事はしないようにね」
「約束のことがあるからですか?」
詳細は思い出してないけど、俺からの問い返しにちょっとばかし驚いた反応を見せたムグルは、コメントを控えるように「まぁね」と答えて。預かってきた質問用紙を俺に差し出し、話題を変えてしまう。
「続いて質問に入るけど、まとめる暇がなくてね。同じ質問は省いていって良いよ」
「お茶でもいれましょうか?」
「お願いします」
厚みはないが、ビッシリ質問事項が書かれた用紙から〈経緯を知りたい〉という大雑把な質問をデカ文字で書かれているものもあり。1つ1つを丁寧に答えていると、日が暮れそうだと素で思った。
さらに一通り目を通した俺と目があったムグルが、ついでとばかりに「ボクからも質問したいんだけど、いいかな?」と尋ねてきたので。一旦質問用紙をテーブルに伏せた俺は、特権を行使する彼に「どうぞ」と営業スマイルで答えた。
すると、ご満悦な表情を浮かべたムグルは、クイズ番組の司会のように淡々と質問だけを述べていく。
「じゃあ率直にWPの印象は?」
「あんまよろしくないです」
「WTPOと直接連絡をとったことがある?」
「ありません」
「そもそも直接君と連絡が取れる手段が無い、っていうのはホント?」
「て言うか、立場的に無理です」
「立場的というのは?」
「あくまで見習い身分ですから、黙って通信機器を使う勇気はありません」
「それじゃあLiderとの連絡も、ウォームを介して?」
「そうですね。どうにかしたければ、頑張って信頼を勝ち取って下さいませ」
最終的に何が言いたいのか分かった俺は、無理難題な事を言われる前に、一番の原因を突き返した。幾ら俺が信用を積み重ねても、限界というものがある。
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