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「難しい事を言うね」
「でなければ、チャンスが来るまで待つしかないですよ。今の状況下で俺が出来る事といえば、WPに助けを求めるぐらいです」
すると、ようやく強引に押し駆けて来た理由に気付いたのか。口角を上げたムグルは、確認のため質問を続ける。
「もしかして、事前に護衛を頼むような話をしてから此処に来たの?」
「まぁ、そうですね。とりあえず護衛として、二名までなら大目に見てくれそうですけど……。ムグルさんのようなベテランさんは、ノー・センキューと言われそうです」
「だろうね。研修生が二名一組で行動する決まりだから、御一人様限定じゃなくて良かったよ。……顔見知りは避けてほしい?」
「出来れば、そうしてくれると有難いです」
ハッキリと否定しずらいが、両肘を立てて口元を隠して問うムグルに、俺は友達に悪いと思いながらも肯定の意を返した。
ーーと言うのも疑われる要素は、ラーリングの傍にいたいと考えている俺にとって致命的だからである。
「それじゃあ、蓮くんと緑さんを第一候補に上げておくよ。此処で会わなかった人達なら、帰った後どんな子か教えようにも教えられないと思うしね」
「有難うございます」
でも容姿を知らないだけで、提供された和菓子を作った本人様とギフトでパソコンを所持した人物であることは知ってる。それに呼び名からして男女ペアだろう。
だから後々自分が困らないよう、「あっ」と閃いた時に忠告しておく。
「言っときますけど……。女性専用個室が必要な場合は、ウォームに相談して下さいね」
「承知したよ。だけどいいのかい? ボク達WPに手を貸しちゃって」
「いや、そこは利用の間違いですよ。WPの手助けが出来るとは思えませんからね」
俺は、横から鳳炎に差し出された湯飲みを受け取って率直に告げた。それだけ自分の弱さに関しては、自覚している方だと思う。
「それはまた、随分自分の実力を過小評価しているんだね」
「そうですか?」
昔の俺の事は知らないけど、現状を踏まえた俺からすると、むしろ過大評価されてるとしか思えないのですが……。
どうも俺の様子から危機感を覚えたムグルは、論より証拠とばかりに腰を上げると、親指で庭先を差して俺を誘う。
「試してみるかい?」
「え? まぁ、そうなりますよね」
こうなったら言って聞かせるより、見てもらった方が早いだろう。元より実力を測ってもらうつもりだったので、俺は手にしいた湯飲みの茶を飲み干すと庭へ移動した。
【今も昔も変わらぬ思考回路/完】
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