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「因みに昔の俺は、何が強みだったの?」
「__経験、かな?」
ムグルは、少し悩まし気に考えてから答えながら投球した。嘘ではなさそうだけど、やたら魔法の知識が甦るのでピンとこない。
俺は勢いよく空振りすると、ジト目でムグルの表情を観察する。
「もしかして疑ってる? 酷いな」
「だって、実感が無いと言うか……。魔法は思い出せるのに、経験したことなんて覚えてないし……」
「まぁそうだろうね。今思い出してたら、精神的にくると思うよ。今年で何歳になると思ってるの?」
ーー何か腹立つな。
まだ正確な年齢すら覚えてないけど、今は英里の記憶が強いことから、先輩から爺と言われてる気分になる。
「ムグルさん、口が悪いですよ」
「ごめん、ごめん。とにかく闇雲に魔法を使う事しか出来ないようだから、此処で経験を積んだ方が早いと思って」
ーーなるほど。
確かに、ゲームなら単純に威力のある魔法が使えれば最強だ。でも、それだけでは現実は無双出来ない。余りにも不確定要素が多いのだ。
今度は話を聞きながらムグルの投球を目で追いかけると、何とかバットに球を当てた。
「それに良くも悪くも、英里と呼ばれてるだけで肉体は違うんだから。あっちの世界で出来なかったからと言って、諦めないで欲しいんだよね」
ーーそれもそうか。
心が追い付かなくて、主語を変えるだけで精一杯だったけど……。記憶が多少なりとも戻り、魔法が使えるようになって。更に命を狙われるようになったのだから、いい加減己の肉体と向き合わなきゃ死んでしまう。
「御薙くん達が言ってたけど、視力が良くなっただけじゃなくて。持久力や運動神経も変わりすぎて、把握しきれてない部分があるんじゃないの?」
「まぁその前に、大人しくするよう言われてるで。運動らしい運動は、初めてかもしれません」
大体施設には、スポーツどころか運動出来る場所なんて無かったし……。魔法を好き勝手にぶっぱなせるような環境でもないので、全く自分の実力が分からない状態である。
「ボク達WPとの約束を守ってくれているんだね」
「それもありますけど、外危険ですし……。これ以上、ご迷惑をかける気にはなれないんですよね」
思い出すは、各施設に赴く度に騒動に巻き込まれ、意識飛ばして心配をかけてしまう毎日。ストーム施設なんか、バルトトスとのバトルで半壊のままだったし……。
暫くタダ働きでも仕方がないと思うぐらい、俺は損害を与えてる気がする。
「話を聞く限りでは、不可抗力としか思えないんだけどね~。とりあえず半日足らずで球が当たるようになったから、運動神経はありそうだね」
「ほんと?」
「もう皆は、余裕でかっ飛ばす実力者になってるけどね~」
「……精進します……」
そんな会話の後に、ムグルが豪速球を投げてくるけど__。バットに当てるだけで精一杯の俺は、真上に高く打ち上げるぐらいしか出来なかった。
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