29人が本棚に入れています
本棚に追加
/314ページ
ーー皆、ずっと前を歩いてるんだなーー
地上と変わらぬ青空を見上げて、ゆっくりと落ちてきたボールをキャッチすると、暫くの目標は足手まといにならぬよう。単純に運動する機会を増やそうと思った。
「とりあえず、今日はここまでにしようか。宿題も残ってることだしね」
「でも殆どムグルさんに話したような……」
「そんな事ないよ。例えば施設で知り合った人の中で、親睦を深めている人は誰なのか。施設のトップである会長とは面識があるのか。個人的にも知りたいんだよね♪」
ーーおい。
人がようやくヤル気になったのに……。
ムグルの関心は、あっという間に変わってしまったようだ。
「詰まるところ、俺の人間関係を知りたいんですね?」
「ピンポン♪」
「無条件では教えませんよ」
人間関係を知られて一番困るのは、俺の名前を上げて知り合いを騙す事だ。ようやくウォーム以外の人達から信頼を得て、色んな事を話してくれるようになったのに……。
助けを求めた先を見誤ったかと思った俺は、再びムグルに疑念を抱いたものの。
口角を上げたムグルは、予想範囲内とばかりに言葉を返す。
「まっ、そう言うだろうと思ってたよ。そこで提案なんだけど……。ボクから話を進めるから、必要に応じて君が知ってる事を教えてくれないかな?」
「__情報交換、ってことですか?」
俺が確認のため質問すると、真剣な顔立ちで頷いて見せるムグル。解答に悩んだ俺は、持っていたボールを握りしめて考える。
そもそも俺は、ムグルの事を余り覚えていない事から印象で物事を判断しているため。生活を共にしている鳳炎と同じ信頼を寄せる事は出来なかった。
「心配しなくても、ボクが君を裏切る事は絶対にないよ。ボクがこうして生きていられるのは、君のお陰なんだからね」
「どう言う意味ですか?」
俺の気持ちを汲んでくれるのは嬉しいけれど、まるで死ねと言えば死ぬような言い草に耳を疑った。それが本当なら、俺がかなり有利な立場になるけど__。
「御主人。ムグルさんにとって、WPは副業でしかないんですよ」
「副業?」
ーー警察は、副業を許さない
公務員じゃないのか?ーー
そうじゃなくても、世界を跨ぐ警察の仕事を副業にしてしまう程の本業が気になる。
鳳炎が言うのなら間違いないだろう。
「思い出せませんか?」
「ヒントは、君の御身分だよ」
「俺の?」
鳳炎の問いに眉を潜めると、ムグルが透かさず手掛かりを口にしてくれたけど……。
皇子の仕事って何だ?
社交界とか? 政治家的な仕事だろうか?
暫く空いてた右手を顎に添えて首を傾げていると、俺の側に歩み寄ってきたムグルが跪き、頭を下げてから発言する。
「セントラルアースの第一皇子であり、鳳龍族の末裔である我が君。家臣として、貴方様のお帰りを心待ちにしておりました」
「へ?! ちょっ…、止めて下さいよ!」
辛うじて思い出した事は、何時だって俺を個人として見てくれた彼の思いやりである。
最初のコメントを投稿しよう!