28人が本棚に入れています
本棚に追加
「少しは思い出してくれた?」
「詳細や経緯までは思い出せないけど……。
裏切れない理由は、何となく分かったよ」
だけど腑に落ちないのは、ムグルの腹が読めないからだろう。俺に弱い立場である事を明かすことで、何の利益があるのだろうか?
戸惑いを隠しきれず、ひとまず家臣としての挨拶を終えたムグルが立ち上がると、今度は鳳炎が俺に話を持ちかける。
「そこで、あの……。御主人に御相談なのですが……。ムグルさんは、どんな理由であろうと、ウォームさんを許せないそうです」
「あっ。ムグルは俺の家臣だから、ウォームの立場を知ってるのか」
自分の方が立場が上だと理解した途端、勝手に呼び捨てにしたけど……。呼ばれた本人は、にっこり嬉しそうな様子で「まぁね」と肯定してから不満を曝け出す。
「今は、魔族のスフォームが雇い主だと言って訊かないんだけど……。君は何処まで把握しているのかな?」
「あ~、えっと……。とりあえず、ウォームの前では知らない振りをしてるつもりだよ。助けを求めるようなタイプに見えないし、ややっこしいことになってるんだよね」
ここで俺は、鳳炎の時と同じように思い出した事とは別に、ウォームが考えていそうな想定を交えて現状を暴露。すると、軽い口調で「なるほどね~」と理解を示したように見せかけて、にこやかに「いっそ〆ようか」とムグルに提案された。
「いや、あの……。もっと穏便な」
「出来ないと思うよ。フレム君は、ラーリングって人を助けたいんでしょ?」
「だけど雄としては、ウォームも」
「それが甘いって、ボクは言いたいんだよ。だから家臣であるボクを頼って欲しいんだ」
そこで俺は、ピンと閃いてしまった。
ムグルの企みと鳳炎が言う相談の意味が、俺が導き出した答えならば……。
主として、望んではいけない結末である。
「ムグルさんは、WPとして参戦しているんでしょ?」
思い違いかもしれないので、わざと優しく尋ねてみると、俺の言わんとする事が分かったようで黙ってしまう二人。
恐らく彼等は、カードの持ち主である魔族のスフォームを殺してウォームを取り戻せないのなら。一旦ウォームを殺してカードに戻す事で、スフォームからの支配から解放しようと考えたのだろう。
「ですが御主人、ウォームさんは強敵です。もし敵に回ってしまったら」
「鳳炎。だからと言って俺達が手を下すと、ウォームは悪者になってしまう。それにウォームを取り戻したい一心で、鳳炎やムグルの手を汚すような提案は出来ないよ」
すると今度はムグルが、深い溜め息を吐いてから俺に質問する。
「君、本当に記憶がないの?」
「ないよ。ないけど、記憶が戻った時に後悔しない選択は出来るよ。大体本気で殺りたかったら、主の許可いらないよね?」
最初のコメントを投稿しよう!