第64話/最強にして最弱でした

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▼▽▼▽▼▽  一方その頃__。ルシウェルの案内で、グレイの自宅がある敷地(エリア)内に足を踏み込んだウォームとストームは、不自然な程の静けさに警戒していた。 (なんや、胸騒ぎがするとこやな) (うん)  でも余計な事を言って、立ち入りを禁じられても困るので。先導するルシウェルの後を大人しく付いて歩き、事前にグレイから教えてもらった住所に辿り着いた。 「此方(こちら)の建物になります」 「えらい静かな住宅地(とこ)やな」 「該当する部屋番まで案内が必要ですか?」 「結構やわ」 「その代わり、フレムを此処に呼び出す必要があるかもしれないので。ルシウェルさんに直接連絡出来る手段がほしいのですが……」  ウォームは、素直に尋ねても対処してくれないと思い。フレムを出汁(ダシ)に彼女の連絡先を聞いた。  すると彼女は、「それなら」と悩む事なく胸元の内から必要な物を差し出して応える。 「名刺をお渡しするので。こちらの番号におかけの上、identifier(アイデンティファイアー)をお伝え下さい」 「分かりました」 「ワイらは、504(ごー、まる、よん)号室におるで」 「承知いたしました」  フレムが同席していた時と比べて、事務的な返答をするルシウェル。その後、一礼もなく踵を返すと、連れていた部下達と共にその場から立ち去る姿は、親しみの名残りさえなかった。 (ワイ等には興味無し、てとこやな) (仕方ないよ。聞けば何でも答えてくれるフレムと違って、僕等は一線を(わきま)えた付き合いしかしてこなかったからね) (それもそうやな)  現に彼等は、グレイの解雇通達するために此処まで来たとは教えていなかった。それも急な話だったので、呼鈴(よびりん)に応じて玄関に出てきたグレイは、極度の緊張状態に陥って言葉も出なかった。 「突然すまへんな。大事な話があるんや」  軽い口調で言ってのけるストームだが、フレムの姿が無いことから顔が青ざめ__。  「悪い話じゃないよ」  そこへ顔を覗かせたウォームの言葉で、余計な力が抜けたグレイが口を開く。 「ど、どうしたんですか? こんな所まで」 「急用や」 「中に入ってから話すよ」 「フレムの事や」  ウォームとストームが交互に話し、プライベートでの顔合わせは初めてだったこともあって、少々身の危険を感じていたグレイだったが……。  裏世界で起きたことは、表世界でニュースになっても当日の話ではない。特にフレムの話題は揉み消される場合があったので、情報を得るためにも無下には出来なかった。 「どうぞ、上がって下さい」  悪い予感が過ったグレイは、二人を客人としてリビングに招き入れると、おもてなしの準備を始めた。
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