第65話/最強故の最凶論

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「楽しそうだね」 「うん! 意識して使ったことがないから」 「そ、そうなんだね」  失言だったかもしれないが、いつも思い出した記憶を頼りに、やらなきゃやられる的な危機感が強かったから……。意識して魔法が使えると、何でも出来るような気になってくるから不思議なものだ。 「それじゃあ自分自身の基礎体力を知るためにも、ちょっとランニングしてみようか」 「うん!」  提案と同時にムグルが手を離したけれど、沈むことなく立っていられた俺は、今なら何処までも走れる気になって。ムグルと一緒に駆け足で家の周りをぐるりと1周走った後、少しずつペースを早めて走る距離を伸ばしていった。 「初日にしては良い滑り出しだね」  しかし、水面を走るために必要な魔力を最低限に抑えられなかった俺は、息が上がる前に水に足を捕られ。ムグルの助けを借りて、一旦家に戻った。 「最低限必要な魔力を知ると、今より長く安定したスピードで走れるようになるよ」  言われてみれば、ムグルは段々速度が落ちてきた俺の足取りに合わせて、安定した水面走りを俺に披露していた。 「もしかして、それで御薙は__」 「当たり。必要な魔力を探るために、もしもの事を考えて浮き輪を利用したんだよ。生まれ付き手加減不要とされる最凶魔法が使用出来る破壊の民と感情の高ぶりで魔力コントロールが困難とされる炎の民の血を受け継いだ彼は、だからね。水の民である華さんは、まだ実力としては不十分だし……。誤った手加減で沈んでしまったら、恐怖でこの空間を傷付けてしまいそうだからと工夫した結果なんだよ。センスは別ぽいけどね」  ーーと言う事は、ムグルも間抜けに見えるとか普通に思ったんだろうか?  それなら俺に勧めなくても__(いや)。  ーー単純に楽しんでるな、この人。  優しそうな顔をして、何かネタを探しているようにも見えた俺は、御薙とは別の手段を選ぶ事にした。 「俺が同じ事をする時は、手を繋いでくれればいいから」  御薙もそうすれば良かったのに……。  それが出来ないリスクがあったのか。  単にムグルを信用できなかったのか。  直ぐに返答してくれなかったことから、俺より身長が高いムグルに視線を向けると、彼は何処か嬉しそうに「喜んで」と答えた。  そして、休憩を挟んでから再び水平線を前にした俺は、一旦夜空と思えるような天上を見上げてから魔力残留を計った。  ーーと言ってもゲームの世界ではないので、目に見える数値がある訳じゃない。  ムグルから「試しに今使える属性の中で、呪文詠唱が必要な攻撃魔法を一度見せてくれないかな」とのご要望があったので。それが発動出来る程の魔力が有るか無いか、感覚で計ったぐらいだ。 「昔の君が作り込んだ空間だし、フレム君の休憩中に鳳炎と二重結界を張ったから、そう簡単に壊れないとは思うけどね~」 「そんな心配しなくても応用はしませんよ」  昔の俺の実力を知ってるからこそのコメントなんだろうが、生憎(あいにく)今の俺はそこまで器用な事は出来ない。
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