第65話/最強故の最凶論

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 ーー記憶があった昔の俺は、     どれだけ有能だったんだろうか?  少し悔しいと言うか、寂しい気持ちになってしまうのは、俺の知らない過去と比べられてるからだと思うけど……。  この空間にいるからこそ出来る体験(こと)楽しむ価値はある!  ウッドデッキの先端に歩み寄ると、水平線に狙いを定めて。一度試して見たいと思っていた、炎属性の最上級魔法を詠唱する。 「紅炎(こうえん)を纏いし (あつ)き龍神よ  立ち塞がりし愚かなる者共(ものども)に  猛火を(ふる)い 裁きを(くだ)せ!  紅炎龍葬撃(ドラク・バリー・エイム)!!」  すると俺の背後に出現した荒ぶる巨大な炎の龍が、大口を開けながら溜め込んでいたエネルギーを圧縮し、右から左へ光線の如く放つと、数秒後に水平線が紅く染まり。遠くの方で何か音がしたかと思えば、爆風と共にバキバキと不穏な音を立てた空間は、頭上からパラパラと光物体を溢して静まりかえった。 「……御主人、やりすぎですよ……」  ーーですよね。  水上が燃えてるようにみえるのは、魔法的な効果だとしても……。情景が某有名作品のアニメで表現された火の七日間である。  それも通常効果で、この威力は予想外だったので。無言で現状を分析するムグルに、俺から話しかける勇気はないけど__。 「フレム君」  ムグルに名を呼ばれ、背筋に緊張が走り。  反射的に「ひゃい!」と、しゃっくりしたような返事をした俺は、怒鳴られる覚悟を決めて背筋を伸ばし__ 「君に魔法訓練は必要なさそうだね」  相手の穏やかな声惹かれて振り返えると、不穏なオーラを滲ませたムグルが、黒い微笑みを浮かべて言った。  ーー めっちゃ怒ってるパターンだ。  皮肉にも記憶がなくても分かるのは、俺が今まで空気を読まなきゃやってけない社会にいたからだろう。咄嗟に「ごめんなさい」と謝罪すると、彼は怒りをコントロールするように溜め息を吐いてから話を続ける。 「言っとくけど、意地悪で言ってる訳じゃないよ。今のフレム君には、守護竜の鳳炎がついてるからね。どんなに命中率が低くても、発動するまでの時間稼ぎをしてもらえれば平気だよ。10秒もあれば、火球弾(ファイア・ボール)二連発ぐらい出来るだろうしね」 「__そんなに上手くいくかなぁ?」 「不安? まぁ戦争とは無縁の国にいたようだから、無理もないことだけどね」 「そう言う話も聞いているんだ」 「まぁ華さんや御薙君達も、見比べる世界はinformation worldだからね。良い予行練習になってるよ」 「予行?」  でも俺のオウム返しに、答える気はないとばかりに微笑みかけたムグルは、腰に手を当てて「とにかく、そう言う事だから」と言って話題を変えてしまう。
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