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「もしフレム君が生きるか死ぬかの場面に遭遇するとしたら、鳳炎とはぐれてしまった時かもしれないね」
「それは確かに……。ムグルさんの言う通りかもしれませんね。信号弾の代わりに魔法を放つ事が出来たとしても、向かってくる敵に成す術無しではいけません」
「と言うことで、これから最低限の護身術は身に付けてもらうよ」
ーーマジか。
一体どんな敵を想像しているんだろう?
口に出して言わなかったけど、平和ボケしてるから戦闘出来ないのではない。そもそも争い事が嫌いだから、手を出すような喧嘩なんてしないし、アニメでは見れるアクションシーンも実写では余り見ないのだ。
けど魔石を管理しているウォーム達は、俺なんかより魔法を使い慣れてるだろうし、自分の事をよく知ってるからこそ無茶が出来るのだろう。
ーー背に腹は変えられぬか。
鳳炎がずっと傍にいる保証は無いだろうし、仲の良いグレイは戦力外。ウォームやストームは、世話を焼いてはくれるけど味方と言う訳ではなさそうだし……。我が身を守る術を身に付けて、損する事はないはずだ。
それに今の俺は英里ではなく。
英里の記憶を共有した別人だ。
魔法は使えるし、身体能力も運動神経も違うから、出来る事も当然異なるはずである。
問題は、身体を動かすのが好きなアウトドアなタイプではないので。ムグルの指導についていけるか不安だったんだけど__。
「さすがフレム君、飲み込みが早いね!」
ムグルは、俺が褒め言葉に弱い事を知っているのか。メニューはスパルタだけど、モチベーションをしっかり維持出来るよう、何かと気に掛けてくれて助かった。
「てか、ムグルってオールマイティーなんだね」
護身術と聞いて、ちょっとした体術をイメージしていたのだけど……。剣術、弓道、射撃術、棒術、空手や柔道なんかの心得もあるようだし……。英里の世界では〈エステマ〉と呼ばれる。相手の動きを受け流すような体術を得意としているそうだ。
「昔の俺と、どっちが強かったの?」
「フレム君だよ。パワーはそこまでなかったけど、スピードがね。仕掛けられる技を把握出来ても、気付いた時には既に技をしかけられてたりするから」
「じゃあウォームと比べたら?」
「んー、そうだな~。剣技は負けるかもしれないけど、総合的には昔のフレム君だね。〈神殺し〉なんて異名が付いてるぐらいだし、比べる方がおこがましいよ」
「神殺し?」
「そもそも鳳龍族の魔法が、神がかってるからだと思うけど……。そこら辺は、ボクでも知らない領域かな。昔のフレム君は、本名を嫌うぐらい余り自分の事を話したがらない人だったからね」
「へぇ、そうなんだ」
厳しい訓練を受けながら耳にしたお話は、自分の事なんだけど、まるで他人事のようなのだから不思議なものだ。
まぁ自分が余り好きじゃないって言うのは、分かる気がするけど……。果たして昔の俺が、今の俺と同じ基準で自分を評価していたのかまでは覚えていなかった。
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