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第58話/見えない敵の存在
「フレムはん。わてメリアちゃんが落ち着くまで、一緒にカインドの部屋に籠るわ」
あれから泣き止みそうにないメリアさんの代わりにぴょん吉がそう告げると、椅子に腰かけていた彼女の肩を軽く叩いて促し、俺達は涙を拭いながら頭を下げる彼女に軽く手を振って見送った。
きっと知らない世界で、彼女の心を支え続けていたパートナーだったんだろう。
まさか主に危険を知らせるための行為で、死に別れるとは思ってなかったろうし……。異世界で悪魔と鉢合わせるとか、最悪の極みである。
(御主人)
(ん?)
(御主人の見解を教えて下さいませんか?)
鳳炎は人型の姿を保ったまま、冷めたお茶を飲みきった俺にテレパシーで問うた。
恐らく悪魔のことを知る俺が、一番正解に近い答えを導き出していると思ってのことなんだろうけど……。俺の口から見解を伝える前に、ウォームの事で知っておいてほしいことがあった。
(その前に、部屋で話しておきたいことがあるんだけど……。いいかな?)
ーー限られた時間。
ウォームに話を聞かれたくなかったので、テレパシーで会話が出来るとはいっても、使用したコップをそのままテーブルに残し、明かりを付けた寝室へと移動したところで改めて話題を振る。
(ウォームのことなんだけどさ)
(はい)
(俺との雇用契約、切れてないよね?)
鳳炎が部屋のドアを閉めた後もテレパシーで話しかけ、俺の質問から何故部屋に移動したのか察したのだろう。
答える前に人気の有無を確認してから(はい)と肯定した鳳炎が、部屋の奥に移動するよう俺を誘導して話を掘り下げる。
(どこまで思い出したのですか?)
(かなり部分的だよ。おまけにややっこしい事になってて……。ウォームは、スフォームの頼み事を聞きながら、俺が頼んだ仕事をやってたりしない?)
すると鳳炎は、俺の質問に答える前に「お座り下さい」と声を出して促すと、ベッドの上に腰を下ろした俺の左隣に座ってテレパシーで応えてくれる。
(その事でしたら、御主人がこの世界に来て初めて目覚める前にお伺いしました。ウォームさんは、仲が良かった死神のカイルさんと仕事を抱えて忙しかった御主人に代わって。先日表世界で遭遇したキアさんを探していたそうです)
ーーと、此処で瞬間的だけど思い出した。
ウォームは、キアの手がかりを掴んいながらも、仕事の都合で身動きがとれなかった俺の代わりに探しに行くと言ってくれたのだ。
(しかし、思わぬ事態に巻き込まれ。報告が出来ないまま、運悪く神隠しに合ってしまったそうです)
ーー違う。
ウォームは、神隠しに合う前から俺に必要最低限の連絡しか入れないようにしていた。
恐く自分の意志とは関係なく、新たな主に遣えなければならない事態となって、後ろめたく感じるようになったんだろう。
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