28人が本棚に入れています
本棚に追加
第61話/厳重な引き渡し対象は俺です
その後、相変わらずストームのご機嫌が直った理由は分からなかったけど……。予定通り離陸した輸送機は、何事もなく雲の上に到達して、穏やかな飛行が続いた。
カインドが拐われた当日は、酷い突風と雷に襲われてたのに……。不思議なものだ。
ーー否。もし俺が知っている神業だとすれば、当然なのかもしれない。
目に見える証拠がないので、考え過ぎだと思うようにしてるけど……。どうにも居眠り出来ず、もぞもぞと狭い座席で寝返りを打っていると、ツンツンと背中を突つかれ。人型で窓際の座席にいた鳳炎が、輸送機の小さな窓枠を指差して言う。
「月が見えますよ」
「月?」
だけど此処は異世界だ。座席を変わってもらって、窓から外を眺めてみると、英里だった世界ではお目にかかったことがない。赤く細長い三日月が、青黒い空に浮かんでいた。
しかも結構デカイような気も……。
「あれがモートの目か」
「何しとるんや?」
食い入るように外を眺めていると、通路に立っていたストームから声を掛けられ。俺から席を奪うのではなく、後ろの窓側席から外を眺めて理解する。
「今日は随分綺麗に見えとんやなぁ。あの目が閉ざされると、転機が訪れるらしいで」
「天気?」
「天候のことやのうて、転換期の事や。それで昔から恐れられとるらしいで」
「へぇ」
「悪い事の予兆、ということでしょうか?」
感心する俺とは違って、ストームの発言から不安にかられた鳳炎が尋ねた。
だけど、そこは現地の人から教わっていないようで。スタートは、「そこまでは知らへんけどな」と申し訳なさそうに答えた。
しかし、そこへやってきたウォームが軽い口調で不吉なことを言う。
「アスタロスが襲ってくるとか?」
「そう言えば、まだサンダーが具体案が無いとか言ってたね」
「ちょい待てい!」
俺は、研修で表側に行った時に話を聞いてたから普通に受け答えしちゃったけど……。
その時、その場にいなかったストームは、即座に突っ込みを入れる。
「なんでフレムがそんな事知っとるんや?! フレムは幹部候補生なだけのはずやで」
「ごめん、ごめん。何故反対を押しきって、教皇様が賛同したのか。フレムが疑問を抱い
ちゃてね。思わずサンダーが答えちゃったんだよ」
すると溜め息を吐きながらも、ストームが「ほんならしゃーないわ」と簡単に認めてくれたところからして。何時までも隠し通せることではない、と思ったんだろう。
俺の方を見て肩の力を抜いたストームが、逆に俺達に向けて尋ねてくる。
「ほんで? 逆にそうやとして、打つ手無しやと怒られるんとちゃうか?」
「そうは言っても、明確な時期とか期限的なものを設けた訳じゃないし……。相手は会話が成り立たない生物なんだよ? いざって時は、魔法でなんとかするぐらいしか出来ないんじゃないかな?」
最初のコメントを投稿しよう!