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第62話/我が身を守るためには
拝啓、産まれ故郷の皆様へ。
国賓として招かれた俺は、肝心な記憶が欠けている所為もあって、全く自覚がないのですが……。自分がどのくらい偉い御身分なのか、具体的に教えてもらいたいです。
だけど嫌な予感しかしなかったので、ちょっと間を開けてからムグルに尋ねる。
「あの……。それって、どんだけ偉い地位なんでしょうか?」
英語は苦手分野だけど……。
直訳すると、中央の地球??
だけど英里として過ごしていた地球とは、全く違うような気がするし……。第一皇子と言う事は、長男なんだろうけど……。
ーー政治的な記憶、全く無いんだよなーー
そもそも跡継ぎとなるはずの人間が、警察の仕事に首を突っ込んでる記憶しかないのは可笑しいとも思うんだけど……。
ーー考え過ぎってなんだろうか?
鳳炎にアイコンタクトを送っても応えてくれそうにないので、尚更困ってしまう。
「え? あっ……。もしかして、産まれ故郷を全く知らないというか。思い出してもいないん状態なんだね。失言、だったかな?」
根本的なことを理解してない俺を見て、ムグルは助けを求めるように鳳炎に質問。
けど相談もなく俺の身分を明かしたのが気に食わなかったようで、機嫌を損ねた鳳炎はフイッと顔を背向けて見せた。
「どうやら今は、余り深く教えない方がいいようだね。代わりに何を教えようか?」
「いいんですか?」
「大サービスだよ」
大方鳳炎のご機嫌を取るためだろうけど、これはチャンスだ。聞きたいことが有りすぎて、何をどう質問すれば答えてくれるのかと思考を巡らせる。さすがにWPの事を尋ねると、ウォームやストームの回し者だと思われそうだし……。
「ん~」
「そんなに聞きたいことがあるの?」
「ありますよ!」
真剣に考えていると、ムグルが意外そうに尋ねてきたのでむくれ顔で対応。
俺を賢者とでも思っているんだろうか?
ちょっと例え話として、WPで働いている俺の友達の様子や経緯でも尋ねようかと思ったけど__。リビングと通路を隔てるドアの擦りガラスに人影が見え隠れしてる事に気付いた俺は、テレパシーで問題点を指摘する。
「あの……」
(とりあえず盗聴機でなければ、盗み聞きOKなんですか?)
(え?)
恐らく俺と向かい合わせに座っているムグルにとって、死角での出来事だから気付かなかったのだろう。指差す方に振り向いたムグルは、見え隠れする人影に失笑すると、テレパシーで(ちょっと待ってね)と俺に告げてからゆっくりと腰を上げ、忍び足で扉の前に移動し__。
「陣くん、由梨さん。盗み聞きするような暇があるなら、提出期限を短くしようか?」
勢いよくドアを内側に開け、腰に手を当ててたムグルが盗み聞きしてた相手を叱った。
残念ながらムグルの背中で、盗み聞きしていた相手の姿は見えなかったけど……。
彼に名を呼ばれた二人は、「す、すんませんでしたぁ!」「ごめんなさーい」と謝罪を述べ、慌ててその場から逃げて行った。
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