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第65話/最強故の最凶論
その頃。時の間で次の日を迎えていた俺は、ウッドデッキから水平線が見える情景を前に絶句していた。隣に立つムグルは慣れたもので、にこやかに「絶景だね~」なんて言ってくるけど……。
「どうやって訓練するの?」
島の上に家が建っているわけではなく。
水上にポツンと家がある状態なので、陸地と言えるものが無いのですが……。
俺の質問に不敵な笑みで応えたムグルは、
ウッドデッキから1歩踏み出し、水面に小さな波紋を広がせながら立って見せると、ポカンと間の抜けた顔を浮かべた俺に説明する。
「魔力を利用しているんだよ。他者の力を借りて発動させる魔法と違って、自力で発動させる魔術の一種だから。魔力が尽きてしまうと、あっという間に沈んじゃうけどね。これが出来るようになれば、同じ原理で重力に逆らった行動が出来るはずだよ」
「へぇ」
そう簡単に出来るとは思えないけど、ムグルが言わんとする事は何となく分かる。
魔力の扱いに慣れる事で、出力の調整を身に付けさせたいのだろう。
「不安なら、御薙スタイルでやってみるかい?」
「御薙スタイル?」
水面を見てるだけで、一向に動こうとしない俺を見かねてか。意味深なネーミングセンスで提案してきたムグルに、オウム返しで尋ねてみると、どうやら御薙は水が苦手な体質になった事から。黄色いアヒルの形をした浮き輪をはめて、訓練に挑んだそうだ。
「間抜け過ぎない?」
「誰も見てないから大丈夫だよ」
ーーそうじゃなくて。
逆に足が沈むイメージをしてしまいそうで、嫌なんですけども……。
「手を繋いでくれるのは無しですか?」
すでに舞台に立ってるような立ち振舞いのムグルを見て、そっちの方がプラス思考が働いて成功するんじゃないかと思った。
けどムグルには、その発想がないのか。
確認のため「それでいいの?」と尋ねてきたので、素直に頷き返すと、右手を差し出してきたムグルが質問を重ねる。
「男嫌いなところがあるって、花さん達から聞いてたんだけど」
「あぁ、うん……。でも、俺も男だから」
するとムグルは、何かを察したように相槌を打って「なるほどね」と軽い口調で言葉を返すと、手を取るタイミングを逃した俺の両手を取って助言する。
「まずボクの足下を見て……。水びだしのステージに上がってくるようなイメージだよ」
そして、俺を舞台に引き込むように身を引いたムグルの勢いで、水面に両足を付けた俺は感動した。まるでディ〇ニーの世界に足を踏み込んだような、まさにファンタジー感を自覚して気持ちが高ぶる。
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