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「……本当に、良かったのか?」
ある研究所内で白衣を羽織った一人の男性が、目に前にいる女性を心配そうに見ていた。
「えぇ。私も、空を飛んでみたかったもの…」
心配そうな彼をよそに、彼女は微笑んでいた。
「でも、お前のお腹に想良くんがいただろ?」
「…大丈夫だって。注射されて、想良を産んで、もうすぐ一年経つのに何ともないし…」
微笑んだまま、彼女はそう言ったが、言いかけて苦しそうにしゃがんで胸を押さえた。
「お、おい、どうした!?」
「大丈夫…。ちょっと、苦しくなったの。でも、一瞬だけ…。うっ…」
苦しそうにしている彼女に心配した彼は、すぐに彼女のそばに寄って、しゃがんで彼女の背中をさすった。
彼女は、彼を心配させまいとずっと微笑んでいた。
そんな彼女を心配して、彼女の背中をさすっていた彼は、ある異変に気付いた。彼女の背中が突然冷たくなり始めて、すぐに彼女の背中が白い光に包まれた。そして、彼女の背中に翼が生えたのだ。
「……こ、氷の、翼…?」
光に驚いて彼女から離れた彼は、彼女の背中から生えてきた大きな氷の翼を見てさらに驚いていた。
『…初めての翼が…、氷の翼…。どうして…、こうなった…?』
彼は、少しずつ体も変わっていく彼女を見つめながら、そう思っていた。
それから、彼女から人間の面影は跡形もなく消えていて、完全にモンスターになっていた。
モンスター化した彼女は、暴走し始め研究所の窓を突き破って、外で暴れ始めた。
彼の友人である一人の警察官が彼女の暴走をどうにか抑えようとした。
その警察官は、彼女の夫でもあった。素手では敵わない相手だと警察官の彼にはわかっていたが、それでも愛する妻に変わりない彼女を傷つけることはできなかった。そのため、警察官は理性を失った彼女に殺された。
研究所から出た彼は、白衣のポケットからひとつの拳銃を取り出し、彼女の胸に向かって撃った。彼が撃った拳銃から飛び出した弾は彼女に命中し、彼女は泣きわめきながら、ちりとなって消えた。
「……すまない…」
大切な二人を失くした彼は自分を責める気持ちでいっぱいになり、座り込んでしばらく動けずにいた。
空からは静かに雪が降ってきていた。
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