2.Draw

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 指令室に戻ると、ラウルが茶器を載せたトレーを手に退室するところだった。 「エリックの気は静まりましたか?」  弟を心配する兄のような面持ちだ。頷くとラウルが安堵の息をもらした。 「お手を煩わせましたね」 「全然だよ。こっちこそ遅くまでありがとう。お茶とケーキごちそうさま、美味しかったよ」  礼を言うと自動扉が閉まる寸前、ラウルは少しだけ寂しげな笑顔を見せた。やっぱりラウルも僕のこと危なっかしいって憂えてるのかな。複雑だ。 「ねえ、レキ。僕って頼りなさそうに見える?」 「エリックに何か言われたのか」 「そういうわけじゃなくて……年下だと、心配されがちなのかなと」 「経験上、年齢が見くびられる要素にはなるな。だがラウルとエリックは違うだろ。おまえを心配してるんだ。許してやれ」 「許すも何も、ありがたいと思ってるよ。ただ、ケルサスで舐められるのは嫌だなって」  レキシアがデスク周りに広げたフローティング・ディスプレイを閉じた。 「優しさを封印しろよ。相手に付け入る隙を与えるな。戦闘艇に乗ってるときはいつもそうだろう」  レキシアの言う通りだ。相手の隙を突くことしか考えてない。優しさは弱さに直結する。「無」に徹することが生き延びる必須条件だ。 「まだ時間がある。おまえも少し休めよ」  レキシアが上着を脱ぎベッドに腰かけた。バルツァーの指定した時刻まであと五時間弱。シャワーを浴びて体を温めたら、少しは緊張が解けるだろうか。   「レキ。ここにいたら迷惑かな」 「そんなわけないだろ。好きなだけいろよ」  レキシアにはこの指令室とは別にもうひとつ私室がある。そちらのほうが広くてベッドも大きいのだけど、上着を脱いだということはここで休むらしい。
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